会社設立

募集設立で株式を割り当てる手続きや起業者が負う責任

募集設立で株式を割り当てる手続きや起業者が負う責任

株式会社は株式を発行して広く出資を募ることができるという特徴があります。そのため起業した時点で多くの運転資金を持ち機動的に企業活動を行うこともできるようになります。そこで「募集設立」という手続を採ることになりますが、ここでは、その手続きがどのような流れで行われるのか、そして募集設立の場合に起業者が注意しなければならないポイントとは何なのかということを解説していきます。

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株式会社は、株式の発行により多くの人から出資を受けることができる会社形態です。しかし世の中の株式会社の多くは一般に広く出資を募るということはしておらず、1人会社や同族会社として、株主もごく限られた範囲でしか存在していないのが実情です。そしてその数少ない株主は経営者を兼ねていることがほとんどで、実質経営者が会社を所有しています。

このような状態で事業を行いたいという需要も多く、会社の設立方法にもバリエーションが設けられています。そこで起業者は「発起設立」と「募集設立」と呼ばれるどちらかの方法によって会社を設立することになります。起業者以外にも一般に広く出資を募る場合を「募集設立」、一般投資家に募集は行わず起業者だけで設立する場合を「発起設立」と言います。 投資家の存在がいる場合でも発起設立をすることはできますが、この場合投資家の人も会社設立のための手続きに参加し、手続きに必要な職務を行い、責任も共にすることになります。そのためただ出資をするだけという人が多くいる場合には募集設立を選択することになるでしょう。ちなみに会社設立を企画して適法に手続きを進めていく立場の者を「発起人(ほぼ起業者と同義)」と呼びます。 つまり、言い換えると発起人だけで起業をするのが発起設立、発起人以外の者が登場する起業の方法が募集設立ということになります。

募集設立では、発起設立と違って発起人以外の人物も出資額の範囲で利害をともにするため手続きが比較的厳格になります。そもそも会社の設立では、会社の根本原則をまとめた「定款」を作成し、株式割当てに応じた金銭等の支払い(出資の履行)、役員等の決定、そして最後に設立登記をする、というのが大まかな流れです。 発起設立では出資の履行をする者が発起人しかいませんが募集設立では別の出資者がいます。さらに、役員等を決めるのも募集設立では出資をした株主の意見を取り入れなければなりません。定款の作成と設立の登記についてはどちらの設立方法でも発起人が行い手続きに違いはありません。

出資者が株主になるまで

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募集設立では発起人による定款の作成後、出資者を募集することになります。そこで募集で集まった者が「設立時株主」となるまでに要する手続きを説明していきます。設立時株主というのは、この設立手続きの段階における株主のような立場のことで、将来有効に会社が設立されることで株主になる者にあたります。そのためほぼ株主と思ってかまいません。

1.募集の決定

出資者を募集するのは発起人です。発起人の判断により設立時株式を引き受ける者を募集しますが、発起人が複数いる場合にはその全員が同意しなければなりません。

発起人は会社の設立に関して大きな権力を持ち、これはのちに社長となる設立時代表取締役が別に選任されていたとしてもその立場は変わらず、会社が成立するまでは募集設立を行うといった重要な判断は基本的に発起人が行います。ただし発起人同士であれば同等の権限を持つため、原則は多数決で意思決定がなされます。発起人1人につき1つの議決権を持つことになり、その過半数を持って様々な取り決めを行うのです。しかし定款作成のように会社の性質を根底から変えるような手続きでは全員の同意が必要です。そして自分たち以外の者から出資を得るため募集を行うというのは会社の経営権が一部他人に渡るという重大なことでもあるため、やはり全員の同意を要するのです。

2.募集事項を決定

募集設立をすると決定すれば次に募集内容を決めていきます。その内容としては「設立時募集株式の数」「払込金額」「払込期日または払込期間」などがあります。また必要に応じて、「一定の日までに会社の設立登記がされなければ引受けを取り消すことができる旨」を定める場合にはその日時も募集事項として定めます。要は、なかなか設立登記がされない場合には投資をキャンセルすることができますよ、と出資者に伝えることができるのです。発起人にとって利益のあることではありませんが、出資者に安心感を与えることができるでしょう。

これらの募集内容の決定はいずれも発起人全員の同意を要します。そして募集事項の決定に関する発起人全員の同意書を作成しておかなければなりません。この同意書は会社の設立登記の添付書面として提出することになります。

3.通知を出す

募集をすることの決定と募集内容の決定が済めばいよいよ引受けの申込みをしようとしている者に通知を出します。通知書には定款の記載事項や発起人が出資した財産の価額、払込金融機関などを記載します。通知を出したことを証明する書面は必要ありません。

また募集をするまでに発起人は自身の引き受ける株式について出資の履行を済ませておかなければなりません。他者を巻き込んで投資をしてもらうため、まずは発起人自身がしっかりと履行の義務を果たす必要があります。通知書にも「発起人が出資した財産の価額」を記載しなければならず、これは出資予定の価額ではなく、出資を済ました価額であることに注意しなければなりません。発起人は1株以上を必ず出資するというのが起業におけるルールであり、この履行をしなければ通知ができません。

そこで、発起人の1人がなかなか出資の履行をしてくれないという事態も起こるかもしれません。このような場合、出資を履行していない発起人に対して出資を求める通知を出しましょう。そうしなければ募集のための通知が出せず募集設立の手続きは止まったままです。義務を果たしていない発起人への通知では出資の履行期日を定めますが、いきなり明日までに支払えということは認められず、通知を出してから2週間以上は空けなければなりません。そしてこの期日を過ぎても履行されないときには「当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利」を失います(失権)。

4.申込みを受ける

設立時株式を引き受けようとする者は通知を受けたのち、実際に申込みを行います。そこで発起人は申込者から「氏名または名称」「住所」「引き受けようとする設立時募集株式の数」を記載した書面等を受け取ります。

5.申込人への割当て

申込み内容に応じて発起人が設立時募集株式の割当てを行います。基本的には申込者が希望した分の割当てが行われますが、申し出た数から減らして割り当てることもできます。しかも割当ての方法は発起人の自由です。例えば募集した株式を超えて申し込みを受けることがあるかもしれません。その場合全員に希望通りの株式を割り当てることができませんが、各申込者に対して均等に減らさなければならないといったルールはなく、発起人が好きなように一部の者の割当てで調整をしても良いのです。

さらに発起人間で代表者を決めていた場合、割当ての判断について発起人の過半数の同意を得る必要すらありません。代表の発起人の一存で決定できます。割当ての判断がこのようになされることから、このことに関して添付書面などを作成する必要もありません。

6.株式引受人の出資履行

発起人による設立時募集株式の割当てがなされると、契約が承諾されたことになります。同時に株式申込者は立場を変え、株式引受人となります。ただしこの時点ではまだ株主はもちろん、設立時株主でもありません。株式引受人は契約の成立後出資の履行義務が生じますので、この義務を果たすことでようやく設立時株主になれるのです。

ちなみに発起人が出資の履行を怠っていた場合には期日を定めた通知を出し、2週間は空けなければならないなど猶予期間も与えられていましたが、設立時募集株式の引受人は発起人ほど優遇されません。指定された期日またはその期間内に払い込みをしなければ、即刻株主になる権利を失います。 期間を設けて待つ必要はありませんが、発起人が危惧すべきことは定款で定めた「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」を下回らないか、ということです。この事項は定款に絶対記載しなければならない事項です。ここに不備があれば会社の設立自体が無効になることもあります。逆に設立時募集株式引受人がその資格を失ったとしてもこの最低額を下回らなければ再募集することもなく、そのまま設立登記ができます。

このように募集設立で出資者を募るには多くの過程を経なければなりませんが、「総数引受契約」という契約を結べばやや手続きが簡素化されてスムーズに事が進められます。総数引受契約というのは募集する株式のすべてを引き受ける契約のことで、この場合には上で説明した通知・申込み・割当てなどが必要なくなります。すぐに株式を発行できるというメリットがあるため事務上この契約は多く結ばれています。1人がすべてを引き受ける場合だけでなく、あらかじめ引受人が決まっていることも珍しくないため、複数人で発行するすべての株式を引き受ける場合でもこの契約が締結できます。ただし総数引受契約を証する書面は設立登記において添付書面となることは覚えておきましょう。

このほか、発起人は出資の払込先として指定した銀行等に対し、払い込まれた金額の金銭の保管に関する証明書の交付を請求できますので「株式払込金保管証明書」をもらい設立登記の添付書面として持っておきましょう。

出資履行後は創立総会を開催

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発起人・設立時募集株式の引受人が、無事出資の履行を終えると引受人は設立時株主となり設立手続きに関して口出しができるようになります。といっても会社成立後の株主と同様、保有する議決権の範囲内で権限を持つに限られます。そしてその意見を発する場が「創立総会」です。これは発起設立には存在しません。基本的には株主総会と同様ですが、決議要件はより厳しく設定されています。

ここでは主に定款の変更や招集時に発起人が特別に定めた内容、そして会社設立の廃止について決議を行います。設立時取締役など、役員等の選任を行うこともあるでしょう。

募集設立で注意したい発起人の責任

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発起人は会社設立において最も大きな権限を持ちますが、それだけ大きな責任も伴います。そこで、出資をしてくれた設立時株主に対し不平等な扱いとならないよう、手続き上の様々な職務遂行義務や不備があった場合の対応義務が付加されています。例えば出資者が現金ではなく、不動産や自動車等を代わりに出資とする場合「現物出資」と呼ばれますが、この場合その物の価額が問題となります。車を提供したとして、500万円の価値があると申告をしても本当は200万円の価値しかないかもしれません。このように現物出資や財産引受けの価額が、定款に記載した価額より著しく低い場合には当然出資者は不足額をてん補しなければなりません。そしてこの場合発起人および設立時取締役も連帯責任となってしまいます。

さらに注意が必要なのは募集設立では発起人等がよく確認して価格に不足がないよう気を付けていたとしても責任を負わなければならないということです。この点、発起設立であれば過失がないことを証明して発起人は免責とされますが、募集設立では無過失責任となるのです。ただし、現物出資の価額が500万円を超える場合には裁判所から選ばれた検査役がその価額評価を行うため、その上で不足していた場合には発起人も責任は負いません。また、検査役による調査がなかったとしても、総株主の同意さえあれば発起人は免責されます。

まとめ

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募集設立では出資者の募集から株式の割当て、そして払込を受ける必要があります。その過程では募集決定や募集事項の決定のために発起人全員の同意を要し、引受けようとする者に通知を出さなければなりません。申し込み後は出資の履行を待ちますが、発起人の失権手続きのように期間を空けて待つ必要はなく、期日を過ぎれば資格を当然に失うためそのまま無視して設立手続きを進めることができます。設立時株主が確定すれば創立総会を開催、設立登記をして会社成立となりますが、募集設立では現物出資の価額評価を正しく行わなければ発起人も連帯で責任を負うことになるため十分に注意しなければなりません。発起設立に比べて募集設立では全体的に厳格な手続きと重い責任を伴う、と覚えておきましょう。

企業の教科書
高桑 哲生
記事の監修者 高桑 哲生
税理士法人 きわみ事務所 所属税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の所属税理士。
「偉ぶらない税理士」をモットーに、お客さんに喜んでもらえるサービスを提供。
税務処理だけでは終わらない、プラスアルファの価値を提供できる税理士を目指す。

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