出張旅費規程は法人成り(個人から会社に)すると使える節税方法です。事業を起こすと出張の回数も増えるもの。1回ごとにかかる費用は高額ではなくとも、交通費や宿泊費など積み重なると大きくなりがちです。
出張旅費規程を作成すると、出張にかかった費用を経費として落とせるようになるので、毎回実費精算するより節税につながります。最強とも呼ばれる出張旅費規程のメリットや注意点などをご紹介します。
出張旅費規程とは

出張旅費の取り扱いを定めた決まりのこと
出張旅費規程とは、会社での出張旅費の取り扱いについて定めた規定のことです。法律上、出張旅費既定の内容や金額等に明確な定めはないため、それぞれの会社が妥当と考える額を任意で設定するのが基本です。例えば、「日当5,000円」や「宿泊費を含む日当10,000円」、「利用する交通機関は鉄道・航空機に限る」などです。
出張旅費規程で主に定める内容
出張旅費規程では、出張手当(日当)や交通費・宿泊費・食事代などを定めるのが一般的です。内規で定められた出張手当を支払うことで、出張に関する雑多な経費を実費精算せずにすむようになります。
今さら聞けない出張旅費と出張手当の違い
出張旅費と出張手当は、どちらも出張にかかった経費のため、混同されがちです。ですが、節税につながるのは出張手当のほうです。出張旅費と出張手当は、一般的には次のように区別されます。
- 出張旅費:出張にかかった費用を実費精算したもの
- 出張手当:出張旅費規程等の内規で決められた手当
出張旅費は、出張にかかった費用を実費精算したもののことです。例えば出張のために支払った交通費や宿泊代といった費用は、会社の業務に関わる費用なので、会社の経費として扱われます。ですが、そのまま経費にできるわけではなく、計上しても節税になるわけではありません。従業員から旅費精算書と領収書を受け取り、精算してはじめて経費に計上できます。出張旅費は出張後に実費精算する場合もあれば、会社が先払いする場合もあります。
一方、出張手当は出張旅費規程などの内規によって決められた手当です。出張手当は会社によって、出張日当や旅費日当、日当などさまざまな呼び方をされますが、内容は同じと考えていいでしょう。出張にかかった食事代や備品代、通信費などの経費を定額支給することで、いちいち実費精算しなくてもすむようにするための制度です。
出張旅費として出張にかかった宿泊代や交通費などの費用は実費精算できますが、実際の出張は現地での食事代や交通費、備品購入費や通信費などさまざまなものが発生するはずです。もちろんすべての費用を実費精算できるのが理想ですが、現実的には難しいでしょう。出張の数が増えるほど、出張者・会社のお互いにとっても大変な手間でもあります。しかも出張にかかる費用は目的地や出張期間、役職などによっても費用が変わることが多いですので、さらに実費精算は難しくなります。出張手当は、出張にかかった費用の精算に関する問題を解決するために有効な制度です。
ただし出張手当は、実費精算がしやすい交通費、宿泊費は基本的に対象になりません。また、出張手当は、出張旅費規程が整備されていることが前提で支給できるものです。
出張旅費規程が節税になる理由とは?
出張旅費規程が節税になる理由①出張時に支払う日当が経費になる
出張旅費規程を作成すると、出張時に支払う出張手当が経費計上できるようになり、会社側にとっては節税になります。反対に出張旅費規程がないのに日当を支給しても、給与手当とみなされるので注意しましょう。
出張旅費規程が節税になる理由②所得税・住民税が非課税
出張手当は所得税や住民税の対象になりません。給与とみなされないため、年収に含まれないからです。例えば、所得税率が10%区分の人であれば、住民税と合わせて20%の節税になるでしょう。節税率は、所得が多い人ほどメリットが大きく、所得税が最高税率の45%の人なら住民税と合わせて約55%の節税につながると考えられます。
出張旅費規程が節税になる理由③社会保険料の報酬にも該当しない
出張旅費規程を作成すると、社会保険料の計算でも節税効果が見込めます。出張手当は、社会保険料の算定基礎となる報酬に該当しないからです。社会保険料の報酬に含まれないということは、社員個人はもちろん、会社側が負担する社会保険料も減ります。両方にメリットがあるといえるでしょう。
出張旅費規程が節税になる理由④課税仕入れ対象になる
会社としては、出張にかかる日当や宿泊費は課税仕入れの対象になり、税金の支払い面でも節税に直結します。給与は消費税の計算上、不課税取引として、消費税の仕入れ税額控除の対象外になります。消費税の支払いは、小規模事業者になるほど負担になりやすい税金です。ですが、日当や宿泊費などは、「業務の性質上必要な出費」とみなされ、支給した金額のうち「通常必要であると認められる部分の金額」は課税仕入れと判定されます。仕入れ税額控除の対象になることで、消費税の負担軽減に効果的と考えられます。
出張旅費規程を作るメリット

出張旅費規程のメリット①節税につながる
なんといっても節税につながることが出張旅費規程のメリットです。出張手当は会社が役員や従業員に支払うものです。出張旅費規程を作成している場合には、実費精算した出張旅費、別途支給した出張手当ともに経費として扱われるため、節税効果があります。加えて、社会保険料や消費税の負担を減らすことにもつながる上、出張者も所得税に課税がないというメリットがあります。
出張旅費規程のメリット②出張のたびに日当計算する手間が省ける
出張旅費規程では出張にかかった宿泊費や交通費、日当などを定めます。規定後は出張旅費規程に従って定額を支払う手続きをすればいいので、出張のたびにいちいち計算する手間が省けるでしょう。
出張旅費規程のメリット③日当の不公平が少なくなる
出張旅費規程で出張手当を設定すれば、社員の間で異なる旅費日当を受け取る不公平感もなくなるでしょう。しかも、出張手当(日当)は定額で、出張にかかった交通費や宿泊費の合計が手当より少なければ、実費と定額支給分の差額はある意味お小遣いとして手元に残すことができます。
例えば、安い交通機関や宿泊施設を利用した場合はいくらか余りが出るでしょう。あるいは、出張先で取引先と食事をした費用は接待交際費として経費計上できるので、その分もお小遣いにしやすいです。出張手当として支給される旅費は実費弁償の性質を有するため、仮に差額分をお小遣いとして持っておいても、そこに所得税や社会保険料がかかるわけではありません。
出張旅費規程作成のデメリット
出張旅費規程のデメリット①作成の手間がかかること
出張旅費規程を作るデメリットは、強いていうなら作成の手間がかかることです。ですが、作ってしまえば、それに従って処理をするだけになるので、かえって手続きの煩雑さは減るでしょう。
出張旅費規程作成時の注意点
出張旅費規程の注意点①全社員を対象にすること
出張旅費規程は、全社員が対象になります。社長や役員のみに日程を出してはいけません。
役職で差をつけることは可能
出張旅費規程の対象者は全社員ですが、支給額は役職で差をつけることができます。ただし出張旅費規定にその旨を記載することが必要です。
出張旅費規程の注意点②妥当な金額を規定する
出張旅費規程で定める出張手当の金額は、「通常必要と認められる合理的な金額」でなければいけません。つまり、一般的に見て妥当とされる金額にすることが必要です。 法律ではっきりした金額が決まっているわけではなく、あいまいな表現でもあるので同業他社の旅費規程の金額を参考にしてもいいでしょう。あまりに多大な金額を設定していると不適切とみなされ、損金(経費)として認められない可能性があります。役員の場合は給与とみなされ、課税対象になる恐れもあるので気を付けましょう。
出張手当の範囲は明確に
出張手当は、どの費用をいくらまで含むか、範囲を明確に決めることが大切です。例えば出張に伴う食事代、通信費、備品代は一般的に出張手当に含まれます。ですが、いずれも法律ではっきり決まっているわけではありません。食事代や通信費、備品代などを出張手当に含むか含まないかは、出張旅費規程で定める必要があります。明確に記載し、線引きをはかることで事務手続きも簡略化しやすくなります。結果的に出張者や会社側が迷わなくてすむようになるでしょう。
出張旅費規程の注意点③例外規定も定めておく
出張旅費規程を定めると、出張手当を定額支給することになります。全ての出張が規定の枠内に収まるとは限らないので、出張時のアクシデントにも対応した例外規定も盛り込んでおきましょう。無駄な出張費を抑えることにもつながるはずです。
できれば海外旅費規程も作成する
出張旅費規程を作成する際は、できれば海外出張に対応した規定も作成しておきましょう。海外出張に関する項目を規定しないと、通常の旅費規程を海外出張用に準用することはできないからです。海外出張は国内出張と勝手が違う部分が多いので、今は予定がない場合も、規定を作っておいたほうがいざというとき役立つはずです。
出張旅費規程の注意点④キャッシュアウトは発生する
旅費を実費精算するだけなら無駄なキャッシュアウトは発生しませんが、出張旅費規程を定めると、規定がなければ支払わなくてよかったキャッシュアウトが多少なりとも発生するでしょう。規定をつくるからこそ出張手当を経費にできて消費税を少なくできるなどのメリットがあるものの、規定があるからこそ会社に負担がかかる可能性があることも頭に入れておく必要があります。特に、一人会社でなく従業員を雇っている場合は、どの程度会社に負担がかかるか考えてから導入したほうがいいかもしれません。
出張旅費規程の注意点⑤節税には適正な支給と会計処理が必要
出張旅費規程をきちんと節税につなげるためには、適正な支給方法と会計処理が必要です。出張手当の金額は、法律で明確な決まりがあるわけではありません。それぞれの会社が、適正だと思われる金額を規定に定め、それに対し処理を行う必要があります。
出張者に出張旅費精算書の作成を義務付ける
適正な支給と会計処理のためには、出張者に出張旅費精算書(出張報告書)の作成を義務付けることが大切です。もし税務調査が入った場合、出張旅費規程と帳簿だけでは出張した裏付けにはならないからです。出張者には出張旅費精算書の作成、上司への提出を義務付けるよう、出張旅費規程内に定めましょう。そして、必ず上司や社長など管理責任者の承認を受けた上で出張手当を支給するようにしましょう。出張旅費精算書の書式について決まりはありません。一般的には日時、場所、訪問先と担当者、出張要件などを記載しておくといいでしょう。
出張旅費精算書は保管を
提出された出張旅費精算書は、調査の際出張をした証明になります。ホテルやタクシーの領収書などとともに、保管しましょう。
出張旅費規程の注意点⑥規定の整備は税理士に相談を
出張旅費規程の作成は自社で検討し作成することもできますが、明確な基準がない分、細かい金額や規定の作成に戸惑うこともあるでしょう。会社の負担を最小限に、且つ最大限節税につなげるには税理士に頼るのも有効な手段です。信頼できる税理士に相談して規定の整備を進めましょう。
出張旅費規程作成時のポイント
出張旅費規程のポイント①目的を決める
出張旅費規程作成のポイントは、まず目的を定義することです。
- 「就業規則第〇〇条に基づき、社員が業務のために出張する場合の手続き及び旅費に関して定める」
- 「この規定は役員または社員が社命により出張する倍の手続きおよび旅費に関して定めるものである」
出張旅費規程のポイント②出張旅費規程の適応範囲を決める
次に、出張旅費規程の適応範囲を決めます。基本的に、出張旅費規定は社長を含め全社員が対象です。ですが、役員や社長とで出張手当の支給額を変える場合は、別に規定をしてもかまいません。あるいは、正社員以外の待遇の従業員が出張する可能性がある場合、どの範囲まで出張にかかった費用を経費として参入できるかを提示する必要があります。
- 「本規定は、当社に勤務する全社員に対し適用する」
- 「この規定は正社員以外の者に対しても、所属長の承認を得ている場合は本規定に沿って処理するものとする」
出張旅費規程のポイント③出張の定義を決める
一口に出張といっても、近距離の場合もあれば遠方へ新幹線や飛行機を使っていくこともあります。法律で移動距離についての基準は特に定められていないため、それぞれの会社がどの程度の移動距離から「出張」とするか、定義をする必要もあります。一般的には、100㎞を目安にすることが多いです。100㎞以内は近出張、100㎞以上を遠出張とするなどです。会社によっては、転勤の際にかかった「転勤旅費」を含める場合もあります。
- 「本規定は、勤務地を起点として、およそ100㎞以内を「近出張」、それ以上を「遠出張」と判断する」
出張旅費規程のポイント④費用項目を決める
出張旅費規程作成には、費用項目の設定も必要です。一般的には、出張手当(日当)、交通費、宿泊費、食事代などに分かれます。
出張手当
特に基準はありませんが、出張手当は「近出張」と「遠出張」とに分けて設定するのが一般的です。出張手当は日当なので、1日に対して一律に規定しましょう。ただし役職に応じて金額を変える場合は、その旨を記載すれば可能です。また、長期出張の場合は日当の総額も高額になるため、制限を設けておくのもひとつです。
- 「1日の日当に関し、近出張は従業員3,000円、役員5,000円、社長10,000円、遠出張の場合は従業員5,000円、役員7,000円、社長12,000円とする」
- 「遠出張の場合は、日当規程に20%を加えた額を支給する」
- 例3:「出張が7日を超える場合は、8日目から出張手当を50%減額して支給する」
交通費
交通費は金額がはっきりしていて比較的領収書の数も少なく、目的地によって定額支給も難しいため、出張手当の対象にならないのが一般的です。基本的に出張手当は実費精算の煩雑さを解消するためのものなので、費用が明確な交通費は実費精算できると判断されるためです。
交通費は主に「鉄道」、「船舶」、「航空機」の3つを規定しますが、場合によっては「バス」や「タクシー」の項目も作成するといいでしょう。その他、自家用車や社用車を使用する場合を想定し、ガソリン代や高速代、渋滞や事故の際の対応についても決めておくと安心です。
- 「近出張は通常ローカル線の電車を利用する。遠出張は特別急行、寝台車、新幹線の指定席を利用してもよい」
- 「飛行機の利用は500㎞を超える場合利用する。ただし緊急時や上長の承認を受けた場合はこれに限らない。」
- 「船舶の利用時は管理職・役員は1等室、一般社員は2等室とする。」
- 「やむを得ない場合または上長の承認を受けた場合はタクシーその他の交通機関を使用してもよい。」
宿泊費
宿泊費も出張手当に含まず、実費精算するのが一般的です。1日の上限額を設定しておくといいでしょう。
- 「1泊あたりの宿泊費は、一般社員8,000円、役員10,000円、社長12,000円を上限とする。」
その他の項目
その他の項目として、出張申請書の提出と承認の義務付けや精算時は何日以内に書類を提出して承認を得ないといけないかについても定めておきましょう。また、出張時の残業や休日出勤の取り扱いについても定めておくとベターです。
出張旅費規程で節税!煩雑な事務処理も解消

出張旅費規程を作成すると、定額の出張手当を支給できるようになり、事務手続きの煩雑さを解消できます。従業員にとっては所得税、住民税が非課税であり、会社側も社会保険料や消費税の部分で節税が見込めるでしょう。
会社側、出張者の双方にとってメリットの大きい規定といえます。ただし、出張手当は妥当な金額や回数でないと税務調査で目を付けられやすくなるので注意も必要です。また、キャッシュアウトは発生するので、負担が大きくならないよう規定を作る必要があるでしょう。とはいえ、無理な規定は作らず、会社に合った利用をすれば合法的で手軽に節税をすることができます。これから起業を考えている場合や、まだ出張旅費規程を作成していない場合は税理士に相談しつつ、導入を検討してみてください。