税金・税務

決算賞与が節税対策になる?メリットや支給要件を解説

決算賞与が節税対策になる?メリットや支給要件を解説

決算が近づき、黒字の見込みで節税対策を考える経営者は多いでしょうが、決算賞与で対策する方法があることをご存じでしょうか。決算賞与は通常のボーナスとは別で支給する賞与であり、節税効果以外にもメリットがあります。ただ、支給する際は一定の要件を満たさなければ認められません。また、場合によっては従業員のモチベーションを下げるリスクもあるため注意が必要です。この記事では、決算賞与の概要やメリット、支給要件や注意点についてご紹介します。

決算賞与の概要

節税対策として用いられることが多い決算賞与は、決算時もしくはその前後に支給する賞与をいいます。就業規則等に定める、通常の夏や冬に支給する賞与はよほどのことがない限り必ず支給します。ですが、決算賞与は業績がよく利益が大幅に見込まれる場合に、臨時で支給する賞与と考えましょう。

決算賞与の一般的な相場

決算賞与は一人につき数万円~10万円程度が相場とされています。通常のボーナスと異なり、臨時で支給する賞与なので必ずしも高額でなくてもいい、というのが一般的な見方のようです。ただ、あくまで相場の数字なので、1万円程度の支給に留める、あるいは給料2カ月分を思い切って支給するなどでも問題ありません。

なお、決算賞与の支給額は一律である必要はありません。等級別、評価別に支給額を決定することも認められています。支給額については、資金繰りの状況も踏まえ、顧問税理士など専門家と相談して決めるのがおすすめです。

決算賞与は節税に効果的

決算賞与を支給する大きなメリットのひとつは、節税効果があることです。例えば、決算期に近づき大幅な利益が出る見込みとなった場合、そのままでは法人税額も高額になります。そこで、決算賞与を支給することにより、従業員に利益を還元しながら、賞与の分は損金計上でき、節税につながります。

例えば社員10人の会社が、決算で800万円の利益が見込まれる場合、そのまま決算をする場合と決算賞与を支給する場合とでは、下記の通り差が出ることになります。

【決算賞与を支給しない場合の税額】(※法人税率30%として計算)

  • 800万円×法人税率30%=240万円

【決算賞与を10万円ずつ支給した場合の税額】(※法人税率30%として計算)

  • (800万円-100万円)×法人税率30%=210万円

このように、決算賞与を支給することにより、通常より30万円分を節税できることになります。

要件を満たせば未払いの決算賞与も損金計上が可能

資金繰りの状況など、タイミングによっては決算賞与の支給が決算に間に合わないこともあるでしょう。ですが、決算賞与は、未払いであっても従業員に伝えており、支払いが確実であるなど、一定の要件を満たしていれば、今期に損金計上できます。

節税だけでなく従業員のモチベーションアップ効果も

決算賞与の支給は、節税以外に従業員の士気を高める効果も期待できます。従業員からすると、思いがけないボーナスが手に入ることになりますし、頑張ったことへのねぎらいや、今後の励ましにもなるはずです。

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決算賞与は支給要件を満たさないと損金計上・節税ができない

決算賞与で節税するには、いくつかの支給要件を満たす必要があります。支給要件を満たさない場合は損金計上できないので注意しましょう。

事業年度終了までに全従業員に賞与の金額を周知する

節税対策として決算賞与を経費化する要件の一つ目は、事業年度が終了するまでに同時期に支給を受ける全ての従業員に対し、決算賞与の金額を通知することです。つまり決算日までに各従業員の支給額を決定し、通知しておかなければなりません。なお、特定の従業員にだけ支給すると損金として認められません。

決算賞与は翌事業年度開始後1カ月以内に支給する

決算賞与は、事業年度が終了する日の翌日から1カ月以内に、全員に対し、賞与の全額を支払うことも支給要件のひとつです。未払いで事業年度を終了した場合でも、翌事業年度が始まり、最初の1カ月以内に支給できなければ、経費化できないので注意しましょう。資金繰りの状況と合わせて、支給までの計画をきちんと立てることが大切です。

決算賞与の金額は未払金として経費計上する

支給要件の3つ目は、会計処理の方法です。決算賞与の金額は、通知をした日の属する事業年度において、未払い金として経費計上しておきましょう。事業年度内に未払金として適切な仕訳が帳簿に載っており、損金であることを示さなければ節税にもつながらないからです。なお、未払金とは、まだお金を支払っていないものの、すでにサービスを受け取っているものをいいます。

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決算賞与の注意点

決算賞与の支給は節税効果などのメリットだけでなく、タイミングによってはデメリットも生まれます。せっかくの節税対策を活かせるよう、注意点も押さえておきましょう。

決算賞与の支給要件を満たさない場合は翌期の損金になる

決算賞与は3つの支給要件を満たすことにより、今期の損金と認められます。ですが、要件を満たさなければ今期の未払金として経費化できず、原則通り支払月の属する翌期の損金になります。

退職し、決算賞与を受け取れない従業員がいると損金計上できない

支給要件をすべて満たした場合でも、決算賞与を通知したあと、退職等で支給を受けられなかった従業員が1人でもいた場合は、全員分の決算賞与が今期の損金に認められません。

例えば、決算賞与の通知後、支払いまでに1人でも退職した従業員がいるとして、在職者にしか支給しなかった場合や、支払おうと思って連絡をしたものの、連絡がつかず支給できなかった場合などです。決算賞与を支給することを決めた時点で要件を満たしていても、支払いをする段階で要件を満たさない状態にならないよう気を付けましょう。

在職者のみに支給する場合も決算賞与を損金にできない

決算賞与の通知から支給までに退職者がいなかった場合でも、就業規則等で「支給日在職基準」の規定を設けている場合は、全額今期の損金に計上できません。支給日在職基準は、支給日までに在籍していない者に決算賞与を支給しないなどとする規定です。

そのような規定があると、支給を完了しないと債務が確定しない扱いとなり、決算日時点では未払いの決算賞与額が確定していないとみなされることになります。

決算賞与の通知と異なる額を支給すると損金に認められない

決算賞与の支給額は、通知したときの金額でなければなりません。例えば翌期に決算賞与を支給したとき、その額が通知した時点での金額と異なる従業員が一人でもいると、さかのぼって今期の損金計上が認められなくなります。支給額が異なる場合は、修正申告が必要となるため、注意しましょう。

役員への役員賞与は経費化できない

決算賞与はすべての従業員が対象であり、特定の従業員だけに支給できませんが、役員に対する決算賞与の支給は、経費として認められません。等級や評価等で差をつけることはできても、損金計上できるのは、あくまで一般従業員への支給になります。

決算賞与はキャッシュアウトを伴う節税対策

決算賞与は法人税の節税対策として有効ですが、賞与を支払うことには変わりなく、会社からある程度キャッシュアウトすることになります。資金繰りの状況によっては、決算賞与を支給せず、そのまま法人税を支払うほうが、会社にはお金が残ることもあるでしょう。節税にだけ気を取られて安易に支給を決定せず、決算賞与を支給しても資金繰りに余裕があるか、バランスも考えて検討することが大切です。

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決算賞与の支給で社会保険料の負担は増える

社会保険料は会社が半分以上を負担することになっていますが、決算賞与を支給した場合、会社の社会保険料の負担は増えることになります。社会保険料の負担が増えるのは、決算賞与が一般的な給料と同じ扱いであり、賞与を支給する分従業員の給料が増えたことになるためです。

消費税の節税にはならない

会社が納める税金は、法人税のほかに消費税などもありますが、決算賞与は消費税の税額には影響しないので注意しましょう。決算賞与は一般的な給料と同じく、消費税が含まれないためです。あくまで法人税の節税に効果がある方法と認識しておきましょう。

決算賞与は税務調査の確認対象になりやすい

決算賞与を支給するデメリットには、節税対策としてよく行われることから、税務調査のとき調査対象になりやすいことです。税務調査では、適切な手順が踏まれて支給が行われているかを調べられます。万が一調査が入っても問題ないよう、しっかりとした手順を踏み、その記録を残す必要があるでしょう。

例えば、通知は口頭ではなく書面やメールで行い、支払いも銀行振込のように証拠が残る方法を取るなどです。もし現金で支払う場合は、一人ひとりに領収書を書いてもらうようにしましょう。

なお、税務調査対策の点でいうと、決算前に決算賞与を支払うのも方法のひとつです。決算賞与は未払金として計上し、損金算入できますが、決算前に支払っても問題はありません。決算前に支払いを済ませておけば、税務調査で指摘されるリスクも減らせるでしょう。

毎年従業員に決算賞与を期待される可能性も

決算賞与は業績がよく、利益が出たときに臨時で支給されるボーナスですが、従業員としては一度でも受け取ることで、次年度以降ももらえると期待する可能性があるでしょう。トラブルや、従業員のやる気を失わないためにも、決算賞与については規定をきっちり周知し、夏や冬のボーナスとは異なることを理解してもらう必要があります。

決算賞与を支給しないことで、その後業績が悪化したということや、モチベーション維持のために利益が出ない年まで決算賞与を支払うなどとなっては本末転倒です。支給の際は臨時の賞与であることを丁寧に伝えましょう。また、決算賞与を支給するのは、どの程度の利益が出た場合にいくらの割合で支給するのか、顧問税理士等と相談し、ガイドラインを作成しておくのもひとつです。

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決算賞与は税理士と相談を

決算賞与は法人税の節税効果や、従業員のモチベーションアップが期待できる対策方法です。支給要件を満たせば事業年度内に未払いでも損金計上ができるので、決算間近でもできる節税方法といえるでしょう。

ただ、まとまったキャッシュアウトになることには変わりないため、安易に支給するのも注意が必要です。翌期以降の資金繰りとのバランスを考慮し、慎重に判断したほうがよいでしょう。

また、支給する場合は税務調査対策や、従業員へ臨時の賞与であることの通知をしっかり行う必要があります。決算賞与について不明な点がある場合や、支給額、決算賞与についての取り決めなどは、顧問税理士など専門家とも相談し、実施することをおすすめします。

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記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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