税金・税務

課税事業主にメリットはあるのか?届け出は必要なのか徹底検証

課税事業主にメリットはあるのか?届け出は必要なのか徹底検証

課税事業主、免税事業主と聞けば、免税事業主のほうが断然有利なのでは?と思ってしまいます。課税か免税かの判断基準は、主に基準期間での課税売上高によります。この売上高が1,000万円以上となれば課税事業主となり、消費税を納めることになるのですが、売上高によっては、課税事業主になった方がメリットについても大きい場合もがあるのです。

この記事では、

  • 課税事業主のメリットが知りたい
  • 課税事業主になるための届出は必要か
  • 免税事業主を選ぶと損をする場合がある?

などを解説していきます。消費税が課税されることでの、節税効果について徹底的に掘り下げて検証します。免税事業主か課税事業主でいくか迷っている経営者は必読の記事です。

消費税課税事業主とは?

まず、課税事業主となる要件について説明していきます。スタートアップ時には、売上高も少なく、給与支払額も少ないとは思うのですが、個人事業主から法人化したときなど、前期にある程度の売上がある場合には、課税事業主になる可能性があります。

課税事業主の要件

  • 基準の会計期間における課税売上高が1,000万円を超
  • 特定の期間内で課税売上高、および給与等支払額が1,000万円を超
  • 設立から2年以内だが、資本金の額(または出資額)1,000 万円超

上記の要件に一つでも当てはまれば、課税事業主です。

基準というのは、前々年、一年間の売上で、特定の期間というのは、前年の上半期、半年間ということになります。

これら3つの要件以外に、相続、合併、分割などで免除の特例より課税事業者になる場合というのもあります。

「相続年の納税義務の免除の特例」について少し説明しておくと、被相続人が課税事業者であった場合は、相続人も課税事業者になるということで、被相続人も相続人も免税事業者なら、相続した年は、免税事業のままでよいということです。

課税事業主を選択した方が良い場合

課税事業主を選択した方が良い場合は、次の3つとなります。 事業開始年に設備投資や仕入れに資金を使ってしまうことは多いと考えられるので、課税事業主を選択した方が、払いすぎた消費税が還付されることもありますので3つの項目を十分確認して、課税事業主になるべきかを検討してください。

①設立したばかりで初期費用が多くかかった

開業時に、設備投資などに多額な資金を使ってしまったが、思ったより売り上げが少ないのはよくあることです。この場合は、預かった消費税よりも、支払った消費税のほうが、断然高くなります。このような時は、課税事業主の方が、払いすぎた消費税が還付されてお得となります。気を付けるポイントとしては、受け取った消費税よりも支払った方が高くなっているかというところです。

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高額な施設などを購入した

事務所として不動産を購入したなど高い設備投資をしてしまったならば、まだスタートアップ時で、売上も少なく受け取った消費税のほうが断然少ないでしょう。このため、課税事業主になり、消費税還付があることが望ましいとなります。

ただ、今年は、設備や事務所購入をしていても、来年はほとんど出費がないことも考えられますから、単年度だけでの判断せずに来年の予算も確認する必要があります。

輸出業者である

輸出取引が多いならば、輸出には消費税がかかりませんので、仕入れや経費で払う消費税のほうが高くなりますので、課税事業者になった方がお得ということになります。

課税事業主?免税事業主?どちらを選べばいいのか

どちらを選べばいいのかの判断材料として、この項目では免税事業主について説明します。免税事業者は、まず売上に課税されず、請求時には消費税を課税してよいのです。しかし、このメリットに関して少し心配な動きもあります。新しい制度が段階的に導入されることになり、この免税事業主のメリットがなくなる可能性が出てきました。課税事業主になることを選択する材料としてもご一読ください。

免税事業主のメリット

免税は、消費税を納税する時にメリットがあります。売上に消費税がかかりませんから、売上が多くて、仕入れなどの経費が抑えられているのなら、免税事業主を選んだ方がお得となります。

ただし、先ほどご説明した、設立時に課税事業主の要件を満たすほどの売り上げがあれば、強制的に課税事業主になってしまいます。

免税事業主のメリットは、売上には課税されないのですが、自社が請求する際には、課税して請求できる点です。そしてこの課税した消費税は、徴収されずに預かることができるので、このことを「益税」といいます。

この「益税」があることが免税事業主の大きなメリットなのですが、「益税」がなくなってしまう事態がおこりそうなのです。これが冒頭に少しお話した新しい制度の導入となります。

【2023年10月1日からインボイス制度が導入される】

この制度は、適格請求書等保存方式と言われ、適格請求書を使った請求金額に記載された消費税でなければ、仕入れ控除ができないというものです。

この適格請求書を使うには、あらかじめ税務署へ申請しなければいけないのですが、申請者は、「課税事業主」だけなのです。免税事業主は、適格請求書は使えないので、注意が必要です。

2023年から段階的に導入されて、2029年10月1日には、仕入れ控除が一切できなくなります。

まだ猶予期間はあるのですが、インボイス制度が導入されていくと、免税事業者を選ぶ企業は少なくなっていくでしょう。 売上が1,000万以下でも課税事業主を選んだ方がお得な会社もあると考えられます。

この新しい税制度の導入について、自分の会社はスタートアップ時から課税事業主を選んだ方が良いのか、そのような疑問が出てきたら、まず税金の専門家である税理士に相談してみてください。専門家である税理士なら、税制度や単年度だけでなく将来にわたっての事業計画を正確に立てることについてもサポートできます。

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消費税転嫁対策特別措置法についても知っておこう

この法律は、消費税増税に伴い、消費税負担が増えることから、免税事業者へ消費税を請求しないように働きかけ、消費税転嫁を防止するための法律です。

もし、消費税転嫁の被害にあったなら公正取引委員会へ報告すれば対応してもらえ、報告したことへの報復も禁止しています。

売上額と事業内容などで選択したほうがよい

スタートアップ時に、2期にわたり免税事業主になれることはメリットでもありますが、売上額、仕入れ額によっては、課税事業主を選んだ方が節税効果は高いということになります。

どちらを選ぶかは、今期の財務状況と併せて、来期の予算についても正確に把握しておく必要があります。税金面に関しては、専門家である税理士にアドバイスを求めることをお勧めします。

課税事業主になるための届出とは?

売上が1,000万円以上となったから、自動的に課税事業主になれるかというと、そうではありません。1,000万円になったら、自発的に届出を行わなければいけません。どのような届け出が必要かを説明します。

課税事業主になるための届出方法

必要書類:消費税課税事業者届出書(基準期間用)

売上が1,000万円を超えた年度の税務申告書とともに提出します。この届け出期限が、速やかに提出とかなりアバウトな設定となっているのが気になるところですが、税務申告書の控えと一緒に、できるだけ早く提出することになります。このような申請に関すること、届出書の作成などは税理士に相談してみてください。本当に課税事業主になった方が良いかなどの判断についてもアドバイスとサポートしてもらえます。

必要書類である「消費税課税事業者届出書」には、もう一つ特定期間用があります。これは上半期の課税売上高または給与等支払額が1,000万円を超えたことにより課税事業主になった時に使用します。

新しく法人化した事業所が課税事業主になった方が得な場合

節税効果を求めて、法人化することで、スタートアップ時には2期にわたり消費税免税となるのですが、下記の要件があれば課税されます。

  • 資本金、または出資額が1,000万円を超える
  • 資本金や出資額が1,000万円未満の新設法人であっても、全株式の50%を課税売上高5億円以上の法人が保有しているとき(2014年4月1日以後設立の法人が対象)

②のほうは、M&Aなどで株式譲渡して、大手企業の傘下に入った時などに気 を付けたい項目です。ベンチャー企業などでは、新規設立後すぐにM&Aを行 って、資金を集めることがありますが、こうなると起業して1年未満、2年目 でも課税事業主になることになり、その届け出も必要となってきます。

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新設法人が株式譲渡を行う上での注意点

M&Aで株式譲渡のスキームを使う場合、売り手側はM&Aが初めてで、譲渡で きる買主が現れた途端に、冷静さを失い売却代金にばかり気を取られるのです が、買い手側のデータを冷静に分析する必要があります。さきほどのように、 課税売上高が5億以上の企業かどうかなどチェックする項目は多くあります。

ただ、大手企業が株式の50%以上を保有となると買い手側の企業も絶対に倒 産しないようにあらゆるサポートをしてきますから、大手企業と株式譲渡契約 を行うことは、企業の経営体質の強化にはなります。

税務署としても消費税くらい払えるだろうと判断しての課税事業者ですから、 この場合も、免税事業者でいるよりは課税事業主になった方がメリットは高く なるということです。

【新設法人が提出すべき届出書とは】

先述しています、消費税課税事業者届出書(基準期間用・特定期間用)とは別の書式で、新設法人で課税事業主になる場合は、「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」が必要となります。これは法人設立時に、課税事業者である旨を明記しておけば、改めて提出する必要はありません。

しかし、先ほどのようにスタートアップ後、間もなく大手企業傘下に入り、株式の50%を保有されることがあった場合は、届け出が必要となります。

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【もう一種ある課税事業主の届出書】

それは、「消費税課税事業者選択届出書」と言って、免税事業主である要件をそなえているのだけど、あえて課税事業主になるための届出書となります。

《この届出書の注意ポイント》

注意すべきは受け付ける期間となります。

①受付期間に注意

「課税期間が始まる前日まで」

この期日に届け出ないと、課税事業主の適用を受けることができません。

②設立したての会社の受付期間

「その年の課税期間最終日まで」に届け出れば適用されます。

《もし課税事業主を辞めたくなったら》

免税事業者が課税事業主を辞めたくなったら、「消費税課税事業者不適用届出書」を提出することになります。 ただし、辞めたいときに免税事業者である要件を備えていることが必要です。

また、この消費税課税事業者不適用届出書を提出すると2年間は免税事業者にはなれません。

払いすぎた消費税が還付されるのは課税事業主のみ

設立当初に、設備投資にお金をかけすぎた、売上よりも仕入れのほうが多かった言う時には、消費税を還付してもらえますが、これが可能なのは、課税事業主ということになります。計算方法も決まっているのです。

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消費税の還付を受けるための計算方法は一般課税制度

消費税の計算方法は、「一般課税制度」と「簡易課税制度」の二つがあります。

【一般課税制度】

売上で請求した「預かり消費税」となり、この預かり消費税から、支払った消費税を引いた金額が還付される消費税額です。

※預かり消費税100円で支払い消費税が80円の場合
100(預かり消費税)-60(支払い消費税)=40円(納税額)

【簡易課税制度】

簡易課税のほうは、預かり消費税からマイナスするのは、預かり消費税にみなし仕入れ率を乗じた金額となります。

このみなし仕入れ率は、事業区分ごとに決まっています。

【簡易課税制度の事業区分の一覧】
  • 第一種事業(卸売業):90%
  • 第二種事業(小売業):80%
  • 第三種事業(農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業など):70%
  • 第四種事業(そのほか飲食業などの事業):60%
  • 第五種事業(運輸通信業、金融・保険業、飲食店以外のサービス業など):50%
  • 第六種事業(不動産業):40%

小売事業(仕入れ率80%)で簡易課税を使って納税額を計算してみます。

100(預かり消費税)-(100×80%)=20円(納税額)

この計算法では、簡易課税のほうが安くない納税額で済みます。 しかし、課税事業主が還付を受けるためには、原則課税の計算方法でなくてはいけません。

《還付を受けるときの計算式》

100(預かり消費税)-120(支払い消費税)=-20(支払いすぎた消費税)

還付は20円となります。

【簡易課税を選ぶ点での注意】

簡易課税を選択するには、課税売上高から簡易的に消費税を計算する方法で、消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。

この届出書を提出すると、一般課税制度で計算できなくなり還付もありません。仕入れのほうが多く、消費税を払いすぎているときは、課税事業主になり一般課税制度を選択する必要があります。

【消費税の申告もe-taxが便利】

e-taxなら自宅から申告することもできますし、窓口、郵送での申告方法ですと還付まで1か月以上かかりますが、e-taxで申告したときの還付は、3週間程度となっています。

課税事業主にするか選択に迷ったら

先ほどからお話していますが、法人設立を検討したときから専門家である税理に依頼することをお勧めします。課税事業主になるかどうかも適切なアドバイスを受けることができます。

税法の改正など正確な情報を受け取ることもできることはもとより、適格な節税対策、また翌年以降の事業計画を行えることは非常に価値あることです。顧問料が少し高いのではと心配になりますが、税理士に支払う報酬も経費として計上することができます。

企業の教科書
記事の監修者 宮崎 慎也
税理士法人 きわみ事務所 代表税理士

東京都千代田区にある税理士法人きわみ事務所の代表税理士。
会社の立ち上げ・経営に強い「ビジネスドクター」として、業種問わず税理士事業を展開。ITベンチャーをV字回復させた実績があり、現場を踏まえた的確なアドバイスが強み。会社経営の問題を洞察したうえで、未来を拓くための手法を提案することをモットーにしている。

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