やむを得ず税金や社会保険料を滞納する事態が起こることは、会社を経営する上で起こりうることかもしれません。ですが、税金や社会保険料を滞納するとどうなるかは、経営者、事業者として押さえておきたいポイントです。今回は、税金や社会保険料を滞納した場合に何が起こるか、どう対処すればいいかについてご紹介します。
税金・社会保険料の滞納は、最悪の場合差押えに
法人・個人ともに税金や社会保険料を滞納し続けると、最悪の場合、会社や法人の財産を差押えされるリスクがあります。
特に、税金の滞納処分は債務名義の取得をせず、いきなり差押えをすることが可能です。通常、債権は訴訟を起こし、判決を獲得した上で債務名義を取得し、民事執行がなされます。しかし税金の場合は、突然会社の財産が差押えられる可能性があります。加えて、税金の滞納に対する差押えは、破産手続きが開始されても強制執行の停止や取り消しができません。この点も通常の債権の民事執行と異なるポイントです。
滞納から差し押さえまでの流れ

税金や社会保険料を滞納しても、すぐに差押えとなるわけではありません。滞納から差押えまでは、いくつかのステップがあります。大まかな流れを把握しておきましょう。
納付期限を超えると「滞納」になる
税金や社会保険料を滞納したとみなされる基準は、納付期限までに税金や社会保険料を納付しなかった場合です。何日間納付しなければ滞納となるわけではなく、納付期限を1日でも超えて納付しない場合、滞納となります。
滞納による延滞税・延滞金の発生
税金を滞納するとペナルティとして延滞税が発生します。延滞税は税金を滞納した翌日から納付が完了するまでの期間に応じて課されます。滞納が続けば続くほど、延滞税はかかります。さらに納付期限の翌日から2か月を経過すると、延滞税の利率もアップするので注意が必要です。延滞税の利率は次のように決められています。
- 納付期限の翌日から2か月を経過する日までの期間:年「7.3%」と「特例基準割合+1%」のいずれか低い割合
- 納付期限の翌日から2か月を経過する日の翌日以降:年「14.6%」と「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い割合
社会保険料も、納付期限を過ぎて滞納した場合に延滞金が発生します。社会保険料の延滞金は、下記の式に従って算出します。滞納している社会保険料は1,000円未満切捨、算出した延滞金は100円未満切捨として算出します。
- 滞納している社会保険料×延滞金利率÷365日×延滞金が発生している期間
- 最初の3ヵ月:年「7.3%」と「特例基準割合+1%」のいずれか低い方を適用
- 納付期限の翌日から3ヵ月を経過する日の翌日意向:年「14.6%」と「特例基準割合+7.3%」のいずれか低い方を適用
督促状が届く
税金の納付期間が過ぎても未納のままだと、延滞税がかかるだけでなく督促状が送付されます。督促状は、税金の納付を支払うよう督促する書面のことです。納付期限や税目、問い合わせ先などが記載されています。督促状は差押え前に送付することが決まっていますが、送付時期は一般的に納付期限から1か月程度(原則50日以内)となっています。ただし、管轄税務署や滞納金額によって送付時期は異なります。
電話・書面による催促
督促状以外に、電話や書面による催促も行われます。場合によっては税務署の担当者が直接会社に訪問してくることもあります。
社会保険料の場合、直接訪問して催促を受けることもあります。一般的には、納付期限である月末を経過すると、納付期限後1週間程度で督促状と電話がかかってくることが多いです。
人物・財産調査
督促状を送付しても納付を行わないでいる場合、税務署は電話や書面で催促するとともに経営者や会社の情報収集も行います。いわゆる財産調査です。財産調査では、預金額や不動産、保険の加入状況や経営者の家族構成、戸籍、取引先や売掛債権にいたるまで詳しく調べられます。
社会保険料の場合も、担当職員が会社や自宅を訪問し、財産調査を行います。税金の場合と同じく、主に現預金、不動産、売掛金などが主な調査対象となり、個人事業主、経営者に聞き取りが行われます。
調査で差押えが難しいと判断され、成果が出なかった場合は、捜査が行われることもあります。調査は任意ですが、捜査は強制なので、拒否することができません。捜査の段階になると、経営者や個人事業主、関係者の自宅へ立ち入り調査を行ったり、取引先の金融機関で預金残高を確認されたりします。取引先企業に連絡し、売掛金について直接確認されることもあります。
調査や操作で意図的に財産隠ぺいや虚偽の申告を行うと、処罰の対象となります。最悪、労働基準法違反として書類送検されるなど、厳しい処罰が下されることもあるので注意しましょう。
差押え
税金を滞納し、税務署からの度重なる催促も無視し続けると、最終的に差押えが行われます。
法律上は、督促状を送付後、10日までに税金を完納しない場合は、差押えを行ってもいいことになっています。督促状が届いてきっちり10日後に差押えがあることはほとんどありませんが、法律上は可能と定められていることを頭に入れておきましょう。
ただし、差押えも一部は対象外となります。差押禁止財産といわれ、生活をする上で必要最低限の財産については差押えられることはありません。
差押禁止財産
- 生活に欠くことができない衣服・寝具・家具・台所用具・畳および建具
- 生活に必要な3月間の食料及び燃料
- 業務に欠くことができない器具、その他の物(商品を除く)
- 実印など職業に欠くことができないもの
- その他生活をする上で最低限の財産
社会保険料についても、一時的な滞納ですぐに影響を受けることはほとんどありません。ですが滞納が2か月、3か月続けると差押えのリスクは高まります。差押え対象になるのは、調査や捜査で対象になったものです。もし預金や売掛金を差押えられると、取引銀行や売掛先に社会保険料を滞納していた事実が知られることとなります。社会的な信用を失い、取引解消などの事態を招くことにもつながりかねないため、注意が必要です。
差押え後は財産を公売にかけられる
差押えされた財産は、公売にかけられ換価されます。換価された金額を滞納していた税金に充て、余剰分は滞納者に配当されます。
倒産・破産時に税金や社会保険料を滞納がある場合
法人の場合は、滞納している税金や社会保険料があっても、倒産・破産し破産手続きが終了した時点で税金債権の債務者が存在しないことになるため、税金債権も消滅します。法人は破産手続開始決定がなされると解散し、破産手続の終了をもって完全に消滅するからです。債務の主体が消滅する以上、債権も消滅せざるを得なくなるため、法人に対する滞納税金、社会保険料の請求債権も消滅することになります。
ただし、税金等の債権はほかの債権より優先されるため、破産手続内で可能な限り債権の弁済や配当が行われることになります。特に、破産手続開始前の原因に基づいて発生した、まだ納付期限に至っていない分、および納付期限から1年を経過していない税金等の債権は財団債権とされ、破産債権より優先的に弁済されます。
一方、個人事業の場合は、破産しても社会保険料の支払義務はなくなりません。破産した後も支払いが残ってしまうので、注意が必要です。
社会保険料滞納による従業員への影響
社会保険料は健康保険や厚生年金保険料、雇用保険、労災保険などから構成されています。会社が社会保険料を滞納したまま倒産した場合、従業員にとって心配なことは年金の受給に影響があるかどうかということではないでしょうか。
一般的には、従業員に不利益はないことが多いです。通常、社会保険料は会社が従業員の給与から天引きし、納めるものだからです。あらかじめ天引きした状態で給与が渡されている場合、厚生年金保険料を支払う義務があるのは会社なので、従業員の受給額が減ることはないと考えられます。
ただし、中には従業員の社会保険料の負担に耐え切れず、社会保険の資格喪失届を出し、従業員を社会保険の対象から外しているというケースもあります。その場合は、受給額が減る可能性があるので注意が必要です。
差押えを防ぐために早めの相談を

税金や社会保険料の滞納による差押えを防ぐには、早めに対処することが大切です。督促状が届いたらまずは税理士、そして管轄の税務署や年金事務所に相談しましょう。税理士に相談すれば、会社の財務状況と照らし合わせ、どのように支払いを進めていけばいいかアドバイスをもらえるはずです。
税金の場合は、税務署に相談するのも手段のひとつです。分割納付や小切手、手形での支払いを認めてもらえるなど、必ずしも滞納分を一括で支払わなくてよくなる場合もあるからです。相談をしたり、分割納付をしている限りは、その間に財産の差押えに入られることはないと考えられます。年金事務所にもこまめに自社の状況を伝え、まずは納付の意思があることを示しましょう。
ただし、税務署に相談する場合、1年以上経過してから滞納分を支払う場合は、納付計画書などを提出するよう求められることもあります。
社会保険料の差押えも、いきなり執行されるわけではなく、予告通知が届いてから行われます。予告通知が来た時点で年金事務所や労働局に相談すると、状況次第ですが一旦差押えをストップしてもらえる可能性もあります。
支払い方法についても、分納を許可してもらえる場合があります。すぐに納付できない場合は、まずは相談に行きましょう。分納をお願いする場合は、健康保険や厚生年金は年金事務所、労災保険・雇用保険については労働局に相談しましょう。いずれも支払う意思があることを伝え、支払が困難な理由について正直に話すこと、分割なら支払える意思があることを伝えるのが大切です。
税金にしろ、社会保険料にしろ、長期的に滞納すると悪印象を生む可能性が高いです。やむを得ず滞納となってしまうことはあるにせよ、長期化、慢性化させずこまめに税理士と相談したり、税務署や年金事務所等に足を運んでコミュニケーションをとることが大切です。
税金は消費税と源泉徴収税の滞納に注意
税金は法人税や法人住民税などさまざまな種類があり、どの税金も滞納しないのが一番ですが、特に消費税と源泉徴収税に注意しましょう。消費税と源泉徴収税は、滞納すると差押えに発展しやすいといわれている税金だからです。差押えリスクがほかの税金に比べて高いのは、税金の性格的に法人の税金ではなく、他人から預かっている税金ということが影響しているようです。
消費税は本来消費者が負担する税金で、法人が売上の回収とともに一時的に預かっているものになります。源泉徴収税も、従業員の所得税を給料等から法人が天引きして預かっているだけの状態です。 法人にかかる税金ではなく、一時的に預かっているだけの税金だからこそ、消費税と源泉徴収税に対しては、税務署の対応も厳しくなりやすいといわれています。もし、いくつかの税金が滞納状態になった場合は、まず消費税や源泉徴収税から納めるといいかもしれません。
まとめ

税金や社会保険料を滞納した場合に起こることとして、まず抑えておきたいポイントは延滞税と督促です。どちらも納付期限を過ぎた時点で延滞税が発生し、期限を過ぎた期間に応じて利率が変わってきます。督促は書類が送付される以外に、電話や直接訪問を受けるケースもあります。
長期的に滞納を続けると、財産の差押えという最悪のケースが待ち受けています。万が一差押えとなると、今後融資を受ける場合も審査が厳しくなりやすいです。最終的な段階になるまでに、税務署や年金事務所などに足を運び、まずは納付の意思を示すことが大切です。
差押えを避けるためにも、まずは滞納をしないこと、滞納をしてしまった場合も督促状が届いた時点で速やかに税務署や年金事務所に連絡を取り、納税の意思を示すようにしましょう。また、税理士にも相談してみてください。会社や事業の財務状況を確認し、滞納分の納付方法についてアドバイスがもらえるはずです。取引先への支払いも大切ですが、税金を滞納しないことが結果的には取引先や銀行などとの信頼関係にもつながるはずです。税理士とともに少しずつでも状況を改善していきましょう。