―IT、教員の超過勤務解決で学校市場に民間参入のチャンスー
文部科学省により公立学校での学習指導要領の改定があり、2020年度から小学校のプログラミング教育が必修化されます。中学校では現状でも一定のコンピュータ教育は行われていますが、2021年度に学習指導要領の改訂がありプログラミング教育が導入されます。このような公的市場の民間委託では、従来のコンピュータを始めとした教育機器などの購入ルートは大手企業を中心に新規参入するのが難しい面がありますが、学習指導要領の改訂などで新分野が開かれる場合はビジネスチャンスがあります。
中小企業や中小団体では、物を納入する分野よりは、人材を派遣する分野や、ソフトウェアを開発する分野、教材を開発する分野などにチャンスがあります。同時に学校の指導要領が改定されると、さらにその上をいくような民間プログラムが開発され学習塾やアフタースクールで展開されます。すでにプログラミング教育専門の学習塾が現れ、事業展開しています。コンピュータに強い子供を育てることは、将来の進路の開発につながりそうです。
地方自治体公的業務受託の意義
地方自治体は事務系組織ですから、建設、電気設備、水道設備、機器類購入、消耗品系購入などはすべて民間に委託されて行われています。大きく制度が変わったのは指定管理者制度の導入です。指定管理者制度により、公的施設(体育館などのスポーツ施設)、文化施設(図書館など)、地域施設(公民館・地域センター)、高齢者施設などの施設の企画運営から民間委託される制度に変わっています。例えば公立図書館を運営しているのが民間会社の場合も多くなっています。人材派遣会社系などもあります。館長だけは公務員ですがスタッフは委託業者の従業員というケースもあります。事業者選定は公募によるもので、入札的な形態です。
地方自治体の公的業務受託の意義は次のようなものです。
- もともと公的業務で民間ではできないものなので、関連事業を営む者にとっては業務拡大になること。
- 公的業務受託は経営の安定化につながること。(年間受託料が保証されているためです。)
- 公的業務受託は企業の信用力アップにつながること。
- 地方自治体の業務受託は同一の区・市内の受託開発につながりやすく業務拡大の展望があること。(例えば東京都内であれば、世田谷区で1か所の受託を取れば営業の窓口となる教育委員会や地方自治体の担当窓口などに継続的に営業をかけることができます。対象となる小・中学校にも営業をしていけば、実績さえどこかで作れれば同一の区・市内で受託拡大していける可能性は高いです。)
プログラミング教育など公立学校の学習指導要領の改訂
すでに述べた通り、来年度2020年度より小学校においてプログラミング教育が必修化されます。文部科学省の学習指導要領改訂によるものです。学習指導要領とは、全国どこで教育を受けても授業にバラつきが出ないよう文部科学省が示しているカリキュラム編成基準のことです。学習指導要領の改訂は約10年ごとに行われており、前回の改訂は平成20~21年で約10年が経過したため今回の改訂が行われます。
ICT環境の整備には2017年以降強化され「情報活用能力の育成を図るため、各学校において、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を活用するために必要な環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図ること」と示され整備されてきました。パソコンやタブレット、電子黒板やプロジェクターなどが整備されつつあります。
小学校におけるプログラミング教育とは、情報活用能力を育成する資質・能力をつけるものとされ、情報活用能力とは各教科の学びを支える基盤となる能力とされています。情報活用能力を育成する資質・能力には、次のようなものがあげられています。
「知識及び技能」
情報と情報技術を活用した問題の発見・解決の方法、情報に関する知識、情報活用に必要な技術を身につけること。問題の解決には必要な手順があることに気づくことなどもあります。
「思考力、判断力、表現力等」
複数の情報を結びつけて新たな意味を見出す力や、問題の発見・解決に向けて情報技術を活用する力を身につけること。自分が意図する活動を実現するためにはどのような動きの組み合わせが必要であるのか、それを記号化し記号の組み合わせをどのようにしたらよいのか、など論理的に考えていく力もあります。
「学びに向かう力、人間性等」
情報に関する知識や技術を活用して情報社会に主体的に参加すること。コンピュータを社会の中で活かす姿勢につながります。
これらの狙いは、プログラミング教育科目として独自に設けられるほか、各教科においても教科内容に沿って、プログラミング的思考を育成するカリキュラムが実施されます。
中学校では学習指導要領の改訂は2021年度となります。小学校では「プログラミング的思考」の育成が目的でしたが、中学校では技術的な側面にも触れることを目的としています。
ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して、次のような能力を身に付けることができるよう指導するとしています。
- 情報通信ネットワークの構成と、情報を利用するための基本的な仕組みを理解し、安全・適切なプログラムの制作、動作の確認及びデバッグ等ができること。
- 問題を見いだして課題を設定し、使用するメディアを複合する方法とその効果的な利用方法等を構想して情報処理の手順を具体化するとともに、制作の過程や結果の評価、改善及び修正について考えること。また生活や社会における問題を、計測・制御のプログラミングによって解決する活動を通して、次の事項を身につけることができるよう指導するとしています。
- 計測、制御システムの仕組みを理解し、安全・適切なプログラムの制作、動作の確認及びデバッグ等ができること。
- 問題を見いだして課題を設定し、入出力されるデータの流れを元に計測・制御システムを構想して情報処理の手順を具体化するとともに、制作の過程や結果の評価、改善及び修正について考えること。
社会での実際の開発工程を意識して「問題の設定」「手順を具体化」「制作」「動作の確認」「デバッグ」「評価」「改善」といった部分にも焦点が当てられているのがポイントです。
プログラミング教育で可能性のある民間参入事業

差し迫っているプログラミング教育の導入ですが大きな課題があります。
第1に、プログラミング教育自体の内容、カリキュラムについては特定のものが決まっているわけではありません。試行錯誤中というところです。つまり現場に多くが任されている段階です。そのため現場では困っているでしょう。良いカリキュラムと教材が求められています。
第2に、教員の指導力の問題があります。教員がコンピュータやソフトウェア、各種の端末機器を使い切れるのかという問題です。
第3に、ICT環境の整備状況です。はたしてどこまで整備されているのかということです。
(1) プログラミング教育のカリキュラムと教材
第1の、プログラミング教育のカリキュラムと教材ですが、現状では子どもの興味を引くためかロボットやゲームなどを使用したものなどがあります。例として下記のようなものがあります。
- 教育版マインクラフト教材タイプ:ゲーム、動作環境:iOS Windows Android その他、有料
- LOOPIMAL教材タイプ:ゲーム、動作環境:iOS、有料
- MESH教材タイプ:ビジュアル言語 タンジブル、動作環境:iOS Windows Android、有料
- 教育版 レゴ® マインドストーム® EV3教材タイプ:テキスト言語 ビジュアル言語 ロボット その他、動作環境:ブラウザ iOS Windows Android その他、無料
- Scratch教材タイプ:ビジュアル言語、動作環境:ブラウザ Windows、無料
- Viscuit教材タイプ:ビジュアル言語、動作環境:ブラウザ iOS Android、有料
- BBC micro:bit教材タイプ:テキスト言語 ビジュアル言語 その他、動作環境:ブラウザ、有料
- Ozobot教材タイプ:ビジュアル言語 タンジブル ロボット、動作環境:iOS Android その他、有料
- CodeMonkey教材タイプ:テキスト言語 ゲーム、動作環境:ブラウザ、有料
- ArtecRobo教材タイプ:テキスト言語 ビジュアル言語 ロボット、動作環境:iOS Windows その他、無料
- Smalruby教材タイプ:テキスト言語 ビジュアル言語、動作環境:ブラウザ Windows、有料
- IchigoJam教材タイプ:テキスト言語 その他、動作環境:その他、有料
- レゴ® WeDo 2.0教材タイプ:ビジュアル言語 その他、動作環境:ブラウザ iOS Windows Android その他 無料
- MakeCode教材タイプ:テキスト言語 ビジュアル言語、動作環境:ブラウザ
(2) 教員の指導力
現在もコンピュータに関連したICTに関する教員研修は行われています。しかし、ICTの機器やソフトを個々の教員が使い切れるかというと簡単ではありません。どうしても指導体制が必要で文部科学省でもICT支援員という専門家の配置を位置づけています。ICT支援員はICT機器の操作指導、使い方指導などを行います。教育のICT化に向けた環境整備の5か年計画(2018~2022年度)ではICT支援員は4 校に1人配置とされています。
ICT支援員については、ICT支援員の業務の明確化、ICT支援員に求められる標準スキルの策定、ICT支援員の研修が課題となっています。
ICT支援員の導入については、教育委員会がICT支援員を直接雇用する形態と事業者に業務委託する形態があります。事業者に業務委託する場合は、自治体や学校がどのような業務をICT支援員に求めるかを決め、事業者がその内容に沿ってICT支援員を配置します。
(3) ICT環境の整備状況
教育のICT化に向けた環境整備の5か年計画(2018~2022年度)では、学習者用コンピュータは3クラスに1クラス分程度、指導者用コンピュータは教師1人1台、インターネット環境やプロジェクターの整備は100%達成としています。その他、学習用ツール、学習用サーバ、校務用サーバ、統合型校務支援システムなどが必要としています。
上記のような事業はいずれも民間の専門機関に委託される内容で民間ビジネスのチャンスになるでしょう。
プログラミング教育の学習塾での導入展開
公立学校でのプログラミング教育必修化は少子化で伸びが止まっている民間の学習塾業界、教育業界では大きなテーマとなっており関心が高まっています。教育のポータルサイト「コエテコ」が、経営コンサルティングの船井総合研究所と共同で調査した「2018年 子ども向けプログラミング教育市場調査」によると、2013年に750だったプログラミング教室の数は、2018年には4457と約6倍に増え、2023年にはその数が1万1127に達すると予測しています。
父母にとってもプログラミング教育への理解や願望が顕在化してきました。
- IT時代ではコンピュータやプログラミング能力を身につけると将来の進路で可能性が広がる。
- エンジニアや医師など理系職業へ就く可能性が広がる。
- プログラミングが論理的なトレーニングになり、算数などの教科の学力アップにも効果がある。
などです。
これからプログラミング教育に参入しようという事業者にとってもまったく実績がないと公的受託にも結び付きにくいので民間市場での経験実績は意味があります。
プログラミング教育では、IT関連企業などが新規の専門スクールで行っているケース、既存の学習塾が別コースで導入しているケース、既存の社会人向け教育会社が新規事業で行っているケース、まったくの異業種が新規事業で行っているケースがあります。
既存の学習塾では、栄光ゼミナールや明光義塾、トライなどがあります。既存の社会人向け教育会社が新規事業で行っているケースではヒューマンアカデミーなどがあります。まったくの異業種が新規事業で行っているケースでは、模型のタミヤや、阪神電鉄、JR東日本、東京メトロなどがあります。
IT関連企業などが新規の専門スクールで行っているケースでは次のようなものがあります。
- Teck Kids CAMP/Tech Kids schoolサイバーエージェントが手掛ける小学生のためのプログラミング教室です。短期のCAMP、長期のschool、公文のように主婦が自宅で教えるホームティーチャーの3種類の形態で展開しています。
- Swimmy(スイミー)初めてプログラミングを学ぶ方向け「ベーシックコース」(MESH/micro:bit使用)と本格的なプログラミングスキルを学ぶ方向け「エキスパートコース」があります。
- SMILE TECH小学生〜中学生向けに、プログラミング・ロボット・デザイン教室を運営しています。
- Litalicoワンダー東京・神奈川の小学生~中学生を中心にプログラミング・ロボット開発・電子工作・Webデザイン・イラスト作成等を通して想像力を培う教室です。
- STEMON東京・神奈川・埼玉・神戸の幼稚園~小学生向けのプログラミングスクールで、サイエンス・テクノロジー・エンジニアリング・数学に重点を置いた教育を目指しています。
異業種からの参入の例としては
- タミヤロボットスクールナチュラルスタイルとタミヤが共同開発したスクールでBASIC言語によるロボットプログラミングを行い、本格的なプログラミングスキルを身につけるとしています。FCフランチャイズによるスク-ル展開もあり次のようなものがあります。
- アーテックエジソンアカデミー全国的に展開しているロボット教室です。
- ヒューマンアカデミーロボット教室ロボットプログラミングに力を入れている教室です。
- iTeen(アイティーン)本格的プログラミングをテーマにプログラミング教育を行っています。
- プロスタキッズ本格的なプログラマーを育てることを目標にしています。
プログラミング教育の振興については文科省・総務省・経産省が連携をとり、学校関係者、自治体関係者、教育/IT関連企業/ベンチャー企業などと共に設立した官民協働の組織の「未来の学びコンソーシアム」が設立されました。
- 小学校を中心としたプログラミング教育ポータル「未来の学びコンソーシアム」https://miraino-manabi.jp/
小学校児童英語、キャリア教育などその他の分野の動向と可能性
小学校の学習指導要領改訂で先行した分野に英語があります。2011年以降小学校5・6学年での「外国語活動」の導入により学習指導要領上は英語が必修となりました。民間事業の関連では人材育成、教材制作などが事業化されてきました。
キャリア教育とは、児童が学ぶことと生き方を考え、将来の自分の進路を結び付けて考えていくことができ、社会的・職業的自立に向けて必要となる資質、能力を身につけることです。
特別活動として導入され、現状では社会見学、社会体験などで行われています。適切な教材などがないなど課題はあります。
教員の働き方改革の動向―超過勤務の解決―
教員の超過勤務が問題になっていて、過労死ラインと言われているのは残業が月80時間以上ですが中学校教員の約6割がこのラインを超えています。そのため教員の働き方改革が叫ばれているのは周知の通りです。民間企業よりも深刻な超過勤務時間と言われています。小学校でも教員は朝7時台には出勤しますので1日12時間以上も学校にいる場合も多く、夜間は10時までの残業も可能となっています。タイムレコーダーもない学校も多く勤務時間管理も行われていない学校も多くあります。固定超過勤務手当がついてのサービス残業です。また休日出勤も多くあります。
中央教育審議会の方策は、「基本的には学校以外(地方公共団体、教育委員会、保護者、地域ボランティア等)が担うべき業務」、「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」、「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」の3つに分けて方策を示しています。
「基本的には学校以外(地方公共団体、教育委員会、保護者、地域ボランティア等)が担うべき業務」には登下校に関する対応などが上げられています。民間企業などが受託可能なものとして、「学校徴収金の徴収・管理」があります。給食費の未払金回収などが課題になったことがあります。
「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」では、調査・統計等への回答、部活動などがあります。部活動指導については外部への委託が検討されています。
「教師の業務だが、負担軽減が可能な業務」では、授業準備、学習評価や成績処理、学校行事の準備・運営、進路指導、支援が必要な児童生徒・家庭への対応などがあります。授業準備、学習評価や成績処理における補助的な業務ではサポートスッフの必要性、学校行事の準備・運営のうち児童生徒の指導に直接的に関わらない業務については事務職員や民間委託等の外部人材によること、進路指導については事務職員や外部人材によること、支援が必要な児童生徒・家庭への対応では、すでに一部導入されているスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーによることが提案されています。
7. 教員の働き方改革のための環境整備
新指導要領の円滑な実施と学校における働き方改革のための環境整備の平成31年度予算案では次のようになっています。
(1) 学校指導・運営態勢の効果的な強化・充実
- 小学校英語専科の指導教員の充実+1,000人
- 学校総務、財務業務の校長、副校長の事務軽減のため共同学校事務体制強化の事務職員+30人
(2) 教員以外の専門スタッフ・外部人材の活用
- スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーの配置促進約74億6千万円
- スクールサポートスタッフの配置14億4千万円(学習プリント等の印刷業務、授業準備の補助、教員のサポート等)
- 中学校における部活動指導員の配置10億円
(3) 情報化教育
- 次世代の教育情報化推進事業9800万円(内、小学校プログラミング支援推進事業 6900万円)
- 情報モラル教育推進事業3100万円
- ICTを活用した教育推進自治体応援事業6000万円
学校ですでに民間委託している分野

学校ですでに民間委託している上記以外の分野には次のようなものがあります。
- 用務(清掃、雑務)1学校当たり2・3名の用務員を請負形態で民間会社が受託しています。
- 施設管理学校施設の戸締り管理、体育館・グラウンドなどの貸し出し管理など
- 児童安全警備学校内で開校時間に正門周辺での訪問者の管理や不審者見張りなど
- 児童登下校交通安全管理シルバー人材センターなどに委託する登下校の道路の交通安全管理
- 学校施設夜間警備警備会社による夜間の機械警備と巡回業務、非常時対応など
- 学童クラブ運営学校とは別の管理体制になりますが学童クラブがあります。働いている保護者のため保護者の帰宅までの時間の 子供の居場所を提供するなどの事業をしています。
- 給食
公的業務受託には法人化を
公的業務の事業者委託は発注者の地方自治体にとっては信用が第1です。途中で事業を推進できなくなったり倒産したら困ります。そのため法人化は必須でしょう。
随意契約か入札かはケースバイケースでしょう。いずれにしても契約手続きでは企業の経営状況についてはある程度調べられるでしょう。
地方自治体の指定管理者制度による委託業務ではNPO法人への委託もあります。地域に根差したNPOは市民活動推進の視点から考慮されています。この場合はNPOの構成員や活動メンバーが区市町村の住民中心であるかも考慮されます。
まとめ
公的業務の新規参入にはタイミングが重要です。新しい事業が始まる時がチャンスです。また公的業務受託にはある程度の実績作りが必要なため民間市場での関連事業を行うことには意味があります。ノウハウの蓄積、人材の育成でも必要です。新分野は当然どこも実績が乏しいため参入の可能性があるのです。
公的業務受託では信用力をつけるため法人化して体制を整備する必要性があります。
また税務会計事務所との顧問契約は公的信用力を増します。地方自治体にとって経営管理、資金繰りの管理が行き届き、納税面でも問題がないと推測されるからです。