事業承継や事業承継税制のことを、知らない人も多いのではないでしょうか。事業承継は、複雑な条件が絡み合っていますが、理解していけば手続きは簡単といえます。事業承継税制も、税理士でないと耳にする機会は少ないですよね。
この記事では、事業承継と事業承継税制について、事例を交えてポイントを解説していきます。ぜひ、参考にしてみてください。
事業承継とは?
事業承継とは、あなたがやってきた事業を後継者に引き継ぐことです。事業承継の候補者は、一般的に社員、家族、社外の第三者が候補に上がります。事業承継をするときは、あなたが第一線から退くときだと考えて良いでしょう。
なぜなら、若いうちから事業承継することは、フリーランスや個人事業主でない限りできないからです。事業承継は、企業を経営してきた人が別事業に挑戦してみたいときや、退職するときに行うことです。
つまり、事業承継をする人は、ほとんどの人が年配の可能性が高いのです。
事業承継税制とは?
事業承継税制は、事業承継によって決まった後継者が、前経営者から贈与や相続を受け取ったときに、贈与税や相続税の納税が猶予される制度のことです。
事業承継税制の対象となるためには、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定を受ける必要があります。
事業承継税制には申請マニュアルがあり、全7章に分けて申請方法の記載がしてあります。詳しくは、下記URLのPDFをご覧ください。
中小企業庁URL:法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定
平成30年にあった「改正事業承継税制」とは?

平成30年に、改正事業承継税制が開始されました。改正事業承継税制では、要件が大きく緩和されています。今回の改正前までの事業承継税制は一般措置、改正後の事業承継税制は、特例措置と呼ばれています。
改正事業承継税制の特例措置
改正後の事業承継税制で緩和された内容は、大きく分けて4つあります。
- 承継後の雇用維持要件を撤廃
- 優遇の対象となる株式の上限の撤廃
- 賞相手となる後継者を3人まで増加
- 承継後に株式価値が低下したときの救済措置
特例措置を利用するためには、認定支援機関の関与が必要となりました。結果として、事業承継も認定支援機関の業務に含まれることになりました。認定支援機関の業務に含むことで、コンサルティングにも期待されています。
廃業者が急増する?

実は、2025年に廃業者数が急増すると予想されています。なぜなら、経営者の6割が平均引退年齢である70歳を超えるといわれているからです。人数でいうと、約245万人以上が平均引退年齢に達すると予測されています。なにが問題かというと、後継者が決まっていないことです。
事業者の半分以上が廃業するかもしれない
先ほど、約245万人以上の経営者が70歳を超えており、後継者が決まっていないといいました。後継者が決まっていない企業は、後継人を決めないと、経営が良好でも廃業になってしまいます。継ぐ人がいなければ、廃業に至るのは一般的な流れでしょう。
国からも問題視されていることは、廃業していく企業の割合です。中小企業庁によると、法人化している企業で3割近く、個人事業で約2/3もの事業が、廃業するのではないかというデータが出ています。法人と個人事業の企業を合わせると、半分近い企業が廃業の危機にあるということです。
廃業の危機にある企業が利用したほうがいい制度が、先ほどもご紹介した事業承継税制です。
改正事業承継税制を利用したほうがいい3つのポイント
改正事業承継税制を利用したほうがいい3つのポイントをご紹介していきます。
- 後継人が決まっていないとき
- 経営者が無理をしているとき
- 手続きのやり方がよく分かっていないとき
後継人が決まっていないとき

後継人が決まっていないときは、改正事業承継税制を利用したほうがいいでしょう。なぜ、後継人が決まらないかというと、2代目として後継人を決める決断が付けられないからです。
実は、改正事業承継税制の特例措置は、あなたの会社の株式贈与だけでは適用されません。次の3つの条件に当てはまっていなければいけません。
- 贈与するときには後継者を代表者とすること
- 後継者に株式を2/3以上保有させること
- 前経営者は代表者を降りること
経営者には、第一線を次の世代に渡す覚悟が問われているといえるでしょう。
経営者が無理をしているとき
後継者が見つからないと、働けるまで働く経営者が増えていきます。その結果が、経営者の平均年齢70歳以上というデータにも表れています。
自分のライフスタイルを貫くより、仕事で限界まで働いてしまい、無理をしてしまう経営者が多いのです。ある程度の年齢になったら、改正事業承継税制の制度を利用するためにも、後継者探しを始めたほうがいいでしょう。
手続きのやり方がよく分かっていないとき

経営者の中には、後継者が決まっていても、改正事業承継税制の手続き方法が分からないことが原因で、手続きができていない経営者がいます。
改正事業承継税制(特例措置)の手続きをするためには、2023年3月末までに前経営者が「特例承継計画」という経営計画書を作成しなければいけません。
経営計画書を作成したら、認定支援機関が計画書に対する考えを記載して、あなたが住んでいる都道府県の知事に提出し、確認を受ける手続きが必要になってきます。
確認終了後、実際に後継者への贈与を行い、知事から経営承継円滑化法の認定を受ける必要があるのです。
難しそうに見えますが、確認を受けるときは、何度でも計画の変更ができます。経営計画書も簡易的なもので良いのです。確認を受けるときの手続きも、返信用の封筒に計画書を入れてやり取りします。
手続き自体は、事務的で簡単だといえるでしょう。
事業承継の事例(成功例)
事業承継や事業承継税制について、ご紹介してきました。次に、事業承継の「成功事例」をいくつかご紹介していきます。これまで解説してきた事業承継の内容と、照らし合わせながらご覧ください。

親族による事業承継事例
ハーブ・アロマテラピー関連事業の事例
アロマテラピーに関連する原材料の輸入や、製品の企画から販売などを行っているA社。全国に90店舗の直営店を有しているほか、アロマテラピーに関するカルチャースクール、サロンなどを運営しています。
現社長は、大手コンビニエンスストアに3年間勤め、25歳の時に父が経営している会社に入社。1年間経営後継者研修で学んだ後、社業に従事しました。
その後すべての実務を経験し、33歳の時に取締役経営室長に就任。39歳で社長に就任し、人事・給与・人事考課などの制度の整備を行いました。さらに新部署を創設し、事業の成長のための組織作りを開始。
父である前社長は、現社長が経営に集中できる環境を整えるため、時間をかけて計画的に株式の移転を進めました。
事業は急速に成長し、年商は3倍以上、従業員の人数も約3倍へと増加しました。その後も安定した経営を続け、現在は次の後継者への承継の準備を進めているそう。
ラーメンチェーン店の事例
昭和47年創業のラーメンチェーン店展開を行う会社。2008年11月現在、国内に105店舗、中国を中心に海外に330店舗を展開しています。
現社長は現在40歳。父の死去に伴って、28歳の時に社長に就任しました。大学卒業後一度は大手飲食チェーンへの就職を考えたものの、父が高齢だったことから、すぐに会社に入ることになったそう。入社後店長を経験した後、中小企業大学校が実施している経営者管理者研修を受講しました。
社長就任後、まずは現状維持に努め、できるところから少しずつ改革を始めました。最初に取り組んだのは、イメージを変えるためのロゴの変更。多店舗展開と味の均質性を維持するための体制の見直しなどを行い、国内海外ともに着実に出店エリアを拡大しています。
現社長は後継者問題について、「親が夢を持ち子供や従業員に夢の実現に向けて頑張っている姿勢が伝われば、子供は親の夢を引き継いで実現しようと考えてくれるのではないか」と語っています。
光学部品製造会社の事例
半導体や液晶製造装置などの産業機械、デジタルカメラなどの映像用機器用光学高性能レンズを主力製品とする会社。現社長は51歳、大学卒業後大手メーカーで4年間勤務した後、26歳で入社しました。
中小企業大学校の経営者後継者研修を受講し、一社員としてスタート。現場で生産関連を担当していましたが、前社長の死去により37歳で社長に就任しました。
もともと大学でソフトウェア開発を学んでいた現社長は、父の会社に戻ってからは製造現場の仕事を希望し、一から製造に携わりました。それによって他の従業員との関係を築くことができ、理想としていた自由な雰囲気が形成されるようになったと語っています。
突然の就任だったことから、後継者として外部関係者への周知が十分に行われていませんでした。しかし幹部や先輩社員などから厚い信頼を得ていたため、支援や協力を受け外部との信頼関係もスムーズに築くことができたのだそうです。
同社は高い技術力で評価を得ており、従業員数は社長就任時の約200人から、約360人へ増加。地域の雇用問題にも貢献しています。
事業承継の事例(失敗例)
事業承継の成功事例について取り上げてきましたが、今度は失敗例をご覧いただきます。なぜ失敗例を取り上げるかというと、成功事例だけ見ても、その通りに事業承継が進むとは限らないからです。
事業承継が上手くいかなかったときに、どう対処すれば良いのかという参考にしてみてください。

事業承継の失敗事例
準備不足による社内の混乱
事業承継の準備を怠ったことで、社内に混乱をもたらしてしまい、結果的に事業承継も失敗してしまうケースがあります。
ある製造業者の経営者は、息子を後継者とする事業承継を考えていました。
ただ事業承継に関して決定していたのは、「息子を後継者とする」ということだけで、その他は、事業承継するタイミングが近いづいてからでも大丈夫と、経営者の方は考えていました。
しかし、経営者の方の体調が突然優れなくなってしまい、急遽、後継者の指名を受けていた息子が新しい経営者として事業承継しなければいけなくなりました。
後継者以外何も決めていなかったため、社内で後継者をサポートしてくれる人材がおらず、経営判断のスピードも低下してしまったことから、多くの従業員が退職してしまう事態に陥ってしまいました。
後継者が見つからない状態が続く
ある会社の経営者は、長年にわたって、自社を事業承継してくれる後継者を探していました。息子や娘に声をかけましたが、後継者になりたいという意志がなかったため、後継者探しを先送りしていました。
しかし、後継者が見つからない状況のまま、体力的にも限界になってきたので、従業員や役員にも声を掛けましたが、結局、後継者になってくれる人が見つからない状態が続いてしまっています。
相談しないまま事業承継を進めてしまう
ある会社の経営者は、誰にも相談することなく、他社に会社を売却して事業承継することを決定してしまいました。
会社売却の手続きはスムーズに進み、事業承継はスピーディーに実施されたのですが、役員にも会社売却の相談をしていなかったため、従業員や家族から大きな反感を買う結果となってしまいました。
結果的に、多くの従業員が退職してしまい、廃業を余儀なくされるほどの事態に陥ってしまいました。
まとめ
この記事では、事業承継と事業承継税制について、事例を交えて解説してきました。
基本知識、成功事例、失敗事例を交えて紹介しているので、事業承継で成功しやすくなるでしょう。
ぜひ、参考にしてみてください。