起業に関心のあるあなたは、売れる商品・アイデア、十分な資金、強力な営業網を持っていらっしゃるでしょうか?実際にはそのような人は稀です。
大部分の人は、
- 商品・サービスは売ってみないと分からない
- 資金は少ない
- 営業もはっきりしない
という現状ではないでしょうか。
では少ない経営資源でどのように起業したらよいのでしょうか?さらに、自分自身にとっての成功とは何なのか?など、起業と人生の目的、自己実現についても振り返り、起業の精神を固めていくことも必要でしょう。
今回は、少ない経営資源でどのように起業したらよいのか?どうすれば成功できるのか?という起業の戦略に関わる点を中心にご一緒に考えてみましょう。
経営資源(人、物、金、情報)
個人、スモールビジネスでの起業こそすべての起業の原点です。マイクロソフトもアップルもソニーも、スタートは個人、仲間のガレージレベルからスタートしました。経営資源がある程度そろった企業の新規事業開発や、事業後継者の関連企業での起業とは異なります。軌道にすでに乗っている経営のコンサルティングやマネジメントとは異なります。ゼロに近いところからの出発です。
しかし、ないないづくしの起業にも基本的な成功の法則はあります。自分の経営資源と市場性、創造性、競争性、社会性などの要因が絡みますが、基本は、人、モノ、金、情報です。
人とは、起業家自身の起業目的、意欲、能力、技術、アイデアなどすべてです。また、起業家周辺のパートナー、出資者、協力者などの他人の力も大事です。
物は商品、サービスです。人の持つ技術、アイデアなどが背景になります。
金は自己資金、出資金、融資などです。
情報は物、市場、資金、ノウハウなど、人・物・金に関わる間接的なつなぎの部分です。
また経営資源力とは、経営資源の人、物、金、情報を加算したものです。
自分自身の経営資源の分析をしてみよう
人
自分自身の起業の動機と目的
あなたは何故起業したいのでしょうか?その動機は何でしょうか?
ここが起業の原点になります。原点が明確で強ければ起業精神が強いことになります。迷いや悩みのともなう起業活動ですが、苦しいときときに壁を乗り越えられる要因になります。次のような例があります。
プロを目指していた運動選手Kさんはケガで選手継続を挫折しました。ケガの治療時に理学療法をうけたことがきっかけで、自分も理学療法士としてケガをした運動選手の役に立ちたいと思い、リハビリ事業での起業を決意しました。
また美術の好きなIさんはビジネスで美術品を扱うような仕事がしたいと思っていました。大学では美術への関心から外国語科目でフランス語を選択。結果としてフランス語は上達し、就職ではフランスの商社に就職しました。
担当した仕事は美術とは関係のない食品などでしたが、個人的にパリでは画材店や美術品商社などの情報を収集し続けていたそうです。ある時にリトグラフ(石版画)の卸先とコネクションができ、会社勤め中ではありましたが起業独立の準備を始めていきました。
時が熟した時に退社し、リトグラフの輸入販売会社として起業。直販の販売会社への卸販売ルートを開発しました。美術が好きという動機に基づき、語学習得、商社での修業と準備を重ね、起業のきっかけと出会ったのです。
最後にご紹介するのは司法試験に20代から40代まで挑戦し続け挫折したものの、行政書士事務所として起業し成功したHさんです。司法試験の夢は他では代えられない夢で、諦められなかったのです。
生活の手段は、学校の警備員の公務員職でした。今は公立学校では宿直もないでしょうし、日勤でも民間委託で公務員の直接雇用はありません。司法試験の勉強をする人は、仕事をしながらでも受験勉強が可能な職場を求める場合が多いです。警備員の1人勤務の現場は、仕事中の待機時間、仮眠時間を多少学習にあてることが可能でした。公立学校警備員勤務20年間が経ち40代になり、公務員年金の受給資格が得られた時に退職し、それまでの間に取った行政書士での独立に目標転換をしました。
起業の決意も揺らぐときがあります。起業の目的も変化します。人間は本来弱いものですから当然です。起業の決意は自分の弱さを克服し自分を強くしていきます。起業家の生き方は自分を成長させるもので、サラリーマンにはない人生が開きます。この原点を大切にして絶えず起業の目的を強めていくことが大切です。
自分自身の能力
武器となるサラリーマンなどを通じて身につけたキャリア、ノウハウ、資格、語学力、アイデア、技術、その他の創造力、営業力、コミュニケーション力などの能力です。どのようなものがあるか上げてみてください。
パートナー、出資者、協力者などの人的パワーで支援が得られるもの
パートナーでは一緒に起業する人や雇用する社員、外部ブレインなどがあります。法人化し株式会社化するならば出資者が支援してくれます。基本的には法人化したほうが組織としてのパワーが出ます。協力者には家族や友人がいますが、これらの人の支援があれば起業はより強力に展開します。
モノ
事業内容となる商品、サービスは何でしょうか?既存のものとの差別化のポイントは何でしょうか?商品の仕入れ先はありますか?また仕入先は独自のものでしょうか?提供するサービスにオリジナリティはあるでしょうか?
金
自己資金はある程度ありますか?事業計画に沿った額は確保していますか?
株式会社設立する場合のあなた以外の出資者はいますか?出資金の額はいくらですか?
出資以外の家族などからの借り入れの予定はありますか?その額と返済条件は?融資を受ける予定はありますか?その金額と返済条件は?
これらの当初の資金、その後の運転資金の管理は誰がやりますか?態勢は大丈夫ですか?
情報
特に市場の情報は重要です。どのような市場、ターゲットを狙ったら良いのかの戦略が必要です。
起業の成功法則とは
経営資源(人+物+金+情報)+市場性・トレンド+社会性
を基本としその値が大きくなればなるほど確率が高くなります。経営資源は自分と自分達の力で、市場性・トレンド+社会性は環境です。市場性ではニーズが潜在化しており顕在化には時間がかかる場合や、顕在化しても対価に見合う経済価値の相場が未成熟の場合もあります。商品・サービスが優れていても時代より早過ぎる場合があります。社会性とは、人や社会に役立つということです。人や社会に役立つものはマスコミのパブリシティにのる場合もあり、社会的に支援が得られる可能性があります。
一点突破全面展開の戦略とは?
上記の経営資源を総合的に上げ多様な要素を分析した後に、今度は自分の強みの中で決定的なものを1点、売りたい商品・サービスを1点、対象とする市場・ターゲットを1点に絞ってみてください。前述の行政書士として独立したHさんですが、的の絞りにくい行政書士の業務分野で、国際的な分野の入管業務1本に絞り込みました。国際的なことに関心があったためです。対象も中国人に当初は絞りました。営業宣伝の媒体を絞るためです。親身なサービスでクチコミを呼び予想以上に早く起ち上ることができました。
あれもやりたい、これもやりたい、というように夢は広がりますが、目的と目標を整理してください。目的は最終的に目指すもの、目標はステップで目指すもので、ステップとしての目標を達成していく経過を経て目的に近づいていきます。
1点突破全面展開の戦略とは、元々は戦闘における弱者の戦法の1つです。弱者が強者と戦い勝つためには、強者の土俵で戦ってはなりません。弱者が少しでも有利な展開が可能な土俵で戦わなければなりません。弱者の戦法の1つに局地戦があります。局地戦であれば限られた人数の部隊しかいない弱者でも戦える可能性があります。また陽動戦があります。攻撃すると見せかけて攻撃しない、攻撃されたら逃げる形で強者を消耗させる戦い方です。
局地戦の応用で店舗展開において、「地域集中出店方式」があります。東京神田神保町周辺に集中出店している天ぷら屋に「いもや」があります。2番手立地で、出店費用の安い裏通りなどに簡素な店舗設備で出店し、天ぷらを安く提供しています。地域に複数の店舗を集中出店することによりその周辺での知名度があります。地域ブランド化が成功しています。局地では知名度があるということから、一定の安定した集客力を持つことができるのです。
出店方法では駅前出店、ロードサイド出店などがありますが、資金力の乏しい弱者は出店費用のかからない方法を模索する必要があります。
インターネットにより弱者にとっては強力な弱者の戦術手段が生まれ、起業成功の可能性が高まりました。自分の強み、物、市場を1点に絞り込み、インターネットという戦術を組み合わせた方法で経営資源の限られた起業時の各種の壁を突破できるのです。
ニッチビジネスとは

限られた力をどのような市場の1点に集中し突破口を開けばよいのかですが、市場規模の小さい分野を狙うのが1つのカギです。ニッチ(隙間)と言われる切り口です。
ニッチビジネスとは、市場規模が小さく参入するメリットが少ないと思われる分野や、新商品・新サービスで市場性が未開拓で不明な分野などで、特定の市場、特定の顧客層を対象にしたビジネスです。競合他社がないか少なく、競争優位性の獲得の確率が高いと思われるビジネスです。
大手企業は彼らのマーケティングの基本戦略から、一定の市場規模がないと参入してきません。メリットが薄いのです。大手企業の新規事業は投入資金が多くなりがちで採算点が高くなります。中小資本は大手が参入して来ない市場なら叩きつぶされません。また独創性のある新商品・新サービスならば、パイオニアになれる可能性があります。
ニッチビジネスの分野にはどのようなものがあるか
ニッチの眼の付けどころ自体がオリジナリティのある勝負どころです。しかし発想の参考も必要でしょう。筆者のイメージするニッチビジネスの分野を参考までに上げます。
地域ローカル分野
生鮮食品関係。朝採れ野菜、朝取れ卵、朝取れ魚など。鮮度が勝負ですが地域的限界があり逆にその限界性を売り物にします。この地域の人しか買えない希少性が強みになるのです。
超専門実店舗、マニア向きネットショップ
ネットショップでも普通の一般的な商品はもちろん同一商品もあふれています。差別化ができません。超専門店の発想が必要です。市場規模は小さいけれど、ターゲットの人にとっては切実なニーズがある分野です。運動選手など足の大きな人向けのビッグサイズ専門の靴屋などが例です。また、特殊な病気の患者向けの医療食や健康食、健康用品などがあります。
特殊性のある商品を新規性のある市場に持ち込むことでも超専門店は可能です。日本の武道具を海外向けのネットショップで売るというような分野です。供給の限られた超専門店に対する顧客のニーズは切実です。他では得られないものであれば熱心なファン、リピーターになってくれます。
ITコンテンツ、eラーニング
オリジナリティのあるゲーム、コミック、教育などのコンテンツを提供します。アイデアと技術があればコンテンツを開発メーカーに売ることも可能でしょう。自ら開発メーカーになる夢も持つことができます。
IT双方向コミュニケーションサービス
スカイプやチャットを使い双方向で、占い、カウンセリング、コンサルティング、相談、語学会話レッスンなどを行うもので、リアルタイム、ノンリアルタイムのもの両方があります。有料課金を行うクラウドサービスもあるのでそこからのスタートも可能です。
オーダー製品分野
服や靴のオーダー分野です。外反母趾の人向けのオーダー靴製作や、パラリンピック選手でも目にするような障害者向けの義肢装具のオーダー製作もあるでしょう。義肢装具は無理かもしれませんが、ネットでの採寸データ送信などで広域展開が可能なものもあるでしょう。
生物販売
犬などのペット、昆虫、植物などの販売です。自ら飼育し販売します。仕入、飼育力、飼育体制が品質の差別化になります。マニアが参入できる分野です。問題になっているブリーダーですが特別の許可免許の制度がありません。昆虫であれば自宅飼育も可能です。ネットショップも一部は可能でしょう。品質クレームも多く個体による相違も多いため交換のききにくい分野で、標準的な処理を望む企業では嫌がる分野です。
職人的手仕事分野、ハンドメイド作家分野
作り手が限られていて、高度な技術が必要な分野では付加価値があります。作家性のある芸術的な作品分野もあります。クラフトではネットショップ作家デビューできるものもあります。量産できない手仕事の良さが魅力です。
価格不明確なサービス分野
葬儀では価格の不透明、不明確の不満があり業界革新のビジネスが誕生しています。価格が分かりにくい分野では、経営コンサルティングや住宅リフォームなどがあります。価格の明確化やパッケージ化による低価格化、情報公開などのシステムが望まれます。
人の嫌がる3Kで付加価値化が可能な分野
3Kの仕事とは、キケン、キタナイ、キツイ仕事のことです。この中で経済的付加価値化が可能な分野はないかが眼の付けどころになります。ゴミ処理業から環境ビジネスへの進化(ゴミ発電、希少金属抽出、プラスチック製品除去、廃油再生、土壌汚染物除去など)、介護サービスから介護ロボット開発協力ビジネス、介護安否確認IT・AI製品開発などへの技術付加などです。
公共サービス隣接分野
行政が行う公的サービスの隣接で行政は行わないが民間ニーズのある分野です。歴史的には最大のニッチビジネスと思われるのがセコムの開発した警備保障業です。警察は民間人の予防的な警備は行わないのが原則です。事件が発生し被害が発生した後でなければ対応しません。そこにニーズが潜在化していました。
行政が行う分野で民間委託化は進んでいます。地方自治体での指定管理者制度や各種の民間委託の拡大です。障害者自立支援などでは小規模民間企業でも参入可能な分野もあります。民間企業参入可能な保育分野でも保育園、託児所開設に公的補助金の制度があります。
真似されても競争優位性を保つブランド化
ニッチビジネスでもパイオニア企業の努力により、潜在市場が顕在化し市場規模が広がってくる場合があります。起業での1点突破全面展開が行えた段階です。そのような状況が生まれると大手も含めて真似する企業が出てきます。ニッチがニッチでなくなる時です。
競争者が現れた時にどのように競争優位性が保っていけるのか、どのように防御していったらよいかですが、事業的には成功したわけですから一定の売上、利益は上がっています。その一定の資金力を背景に手を打っていく必要があります。
目標とすべきことはブランド化です。ブランド化することにより信用が拡大し無形の価値が強化され、購入者・利用者に顧客満足が生まれます。ブランド化には次のような方法があります。
広告の積極的投入
認知度を広め売り上げの拡大につながり、ブランド化の直接的な手段になります。製品・サービスの広告だけではなく、社長自身をマスコミで話題にする広報手法もあります。
販路の拡大
すべての企業が行うわけではありませんが小売店への卸しの拡大、代理店網の拡大、店舗販売とネットショップの複合化などがあります。
知的財産権取得
商標取得などでブランド化を行います。類似名称使用などの場合、法的防御策が可能になります。その他、特許権、著作権などの法的権利の存在をアピールします。
真似されにくいシステムの工夫
- 製品分野での保証期間の長期化
- 製品分野での無料返品制度の拡大
- サービス分野での気に入らない場合の全額返金制度
- 手間ひまがかかる要素の組み込み
あえて手間ひまのかかる要素があるサービスでは、新規参入企業にとっては収益性が圧迫されるため割愛したくなります。目の肥えたユーザーにとっては手抜きと捉えられます。
製品・サービス自体の高品質化、個性化
高品質化は簡単には真似ができません。人材の技術、ハイテクの導入、製造設備の高度化などが必要です。個性化ではデザインの魅力も大きな要素です。
これらの努力の複合化でブランド化が進展します。いったんブランド化が確立するとブランド商品へ見方が精神化し、信仰に準じたものとしてブランド信仰というレベルに達し、価格設定を上げることが可能になります。
オリジナリティのあるビジネスモデル化
1点突破後ビジネスを全面展開するにはビジネスモデルを確立し、そのパッケージ化したビジネスモデルにより、多店舗化などの方法で事業を大幅に拡大していくことです。パッケージ化では、ノウハウの確立、各種マニュアルの整備、システムの開発、人材の育成などでビジネスの標準的な拡大展開の手法が体系化します。事業拡大では次のような分野があります。
- 直営多店舗化
- 海外進出
- フランチャイズ化
フランチャイズ化は外部事業者の資源を活かすことにより機能を本部機能に集中し、事業拡大を短期に行うことができます。また、加盟金、売上ロイヤリティを収入として上げることができます。 ビジネスモデル化は前述のブランド化と連動しビジネスの全面展開を強化します。
持続性のあるマネージメント体制
起業には攻めと守りの役割があります。攻めに強い社長と守りに強い補佐役などの組み合わせです。さらに経営を持続的に発展していくにはマネージメント体制が必要です。起業にとって必要なマネージメント体制では効率的なものが望まれます。ビジネスの実行部隊である営業や生産、サービス提供を行う人材以外の管理的な人材は当初から揃えるのは負担です。ここは外部ブレインや外部ネットワークを使うべきでしょう。
外部ブレインではお金に関するマネージメントを代行してもらう税理士事務所や、関連業界に経験のある経営コンサルタント、創業融資を受ける場合の日本政策金融公庫、その他IT関連企業などがあります。これらの外部ブレインやパートナーには各種の専門的な相談ができます。税理士事務所とは顧問契約を結ぶ形になります。
特に起業当初からいろいろな相談ができるインキュベーション能力のあるところと付き合いができると良いと思います。インキュベーションとは孵化の意味で起業家を育てることに意味づけを持っていることです。税理士事務所でもそのようなコンサルティング機能を持っているところがあります。
まとめ

創業時の起業家は、離陸時の飛行機のパイロットと同じです。
飛行機の離陸には機体のもつ最大エネルギーを投入し助走から全力疾走へ移り離陸します。離陸後も全力展開し目標高度に達したところで水平飛行に移り安定飛行になります。離陸時はパイロットは全神経を集中し操縦します。離陸という目標1点に集中します。創業時の起業家も同様に持てる力のすべてを実行に投入します。目標を1点に絞り持てる力のすべてを集中することにより起業を軌道にのせることができるのです。