商品やサービスの販売促進の決め手となるのが市場調査です。しかし、市場調査の方法は多岐にわたり、「どの方法を選択すればよいのか」について不安を抱く人もいるでしょう。また、アンケート調査などで対象者が本音で回答してくれるとは限らず、効果が得られない可能性も考えられます。
そもそも市場調査は専門分野外であり、正しいやり方を知っている人はあまり多くありません。そこで、市場調査の基本的な内容から中小企業に即したやり方まで説明します。
市場調査とは
広義の市場調査とは、販売促進の目的で市場や顧客の意向・動向を調べることを指し、2つに区分できます。
- 狭義の市場調査:売り物の企画・開発など、商品やサービスをより良くするための調査
- マーケティングリサーチ:広告や販促など、商品・サービスをより多く、より高く販売するための調査
中小企業の場合は両方を兼ねることが多くなりますが、市場調査について説明します。
市場調査の目的
「品質向上」と「販売促進」につなげることが市場調査の目的であり、次の視点から調べます。
市場動向はPEST分析で調査する
PEST分析とは、次のことを指します。
- P:政治(ビジネスに関係ある法律や政治動向など)
- E:経済(経済動向や景気など)
- S:社会(価値観や流行など)
- T:技術(ビジネスに影響を及ぼす技術動向)
経営環境はファイブフォースで調査する
ファイブフォースとは、次のことを指します。
- 商品や原材料など供給業者との交渉力(仕入れ値に対する主導権の有無)
- 既存企業間との競合関係
- 商品・サービスなどの購入者との交渉力(売値の決定権の有無)
- 売り物に対する代替品の脅威
- 新規参入者の可能性
- 価格調査はPSM分析が基本
適正価格の調査は難しく、
- 「支出の痛み」
- 「品質のバロメーター」(例:安物=品質が劣る)
- 「プレステージ性」(例:高級品=ステータスが上がる)
の心理が複雑にからむのが理由です。そこで、商品・サービスについて4つの切り口から質問し、分布図を分析します。
- いくらぐらいから「高い」と思いますか
- いくらぐらいから「安い」と思いますか
- いくらぐらいから「高すぎて買えない」と思いますか
- いくらぐらいから「安すぎて品質が疑わしい」と思いますか
主な調査方法
調査方法は調査結果を数字で表す「定量調査」と、顧客の潜在意識を調査する「定性調査」に区分できます。
定量調査の代表例
訪問調査
調査対象者の自宅・会社へ訪問し、アンケート用紙に記入してもらう方法です。
インターネット調査
インターネットを利用して、調査対象者にオンライン上の調査フォームで回答してもらう方法です。
電話調査
調査対象者に電話し、口頭でアンケートに答えてもらう方法です。
FAX・郵送調査
調査対象者にFAX・郵送をし、アンケート用紙を返送してもらう方法です。
街頭調査
現地調査の一種であり、街頭で対象者に依頼し、口頭でアンケートに答えてもらう方法です。
会場調査(CLT)
対面調査の一種であり、対象者たちにイベント会場などに集まってもらい、アンケートに答えてもらう方法です。
ホームユーステスト(HUT)
商品やサービスなどを対象者に試してもらい、アンケートを答えてもらう方法です。

定性調査の代表例
ソーシャルエスノグラフィ
SNSの投稿を観察する方法です。
ネットインタビュー調査
インターネットのテレビ電話システムやテキストチャットシステムなどを使って対象者にインタビューする方法です。
実地でのインタビュー調査
1対1とグループインタビューに区分でき、対面調査により顧客の本音を探る方法です。
観察調査
家庭やオフィスを訪問する訪問観察、店頭に出向いて行動を観察する店頭調査(ショップアロング)、実際の生活現場に出向いて観察する行動観察調査(オブザベーション調査)などが挙げられます。
定量調査と定性調査の活用方法
定量調査の活用方法
- 消費者の意識調査
- 自社・競合相手の商品・サービスの使用実態調査
- 調査対象者の購入履歴調査 など
定性調査の活用方法
- 調査対象者の生の声抽出
- 少数意見の収集
- 定量調査の質問・選択肢・仮説設定
- 商品・サービスの問題点抽出 など
定量調査と定性調査のメリット・デメリット
定量調査のメリット
- 選択式の質問のため、回答者が答えやすく、数が集まりやすい
- インターネット調査により、簡単・ローコスト・スピーディに調査ができる
- 結果が数字、表、グラフにできるので分かりやすい
定量調査のデメリット
- 設問文や選択肢の書き方などの調査設計によって結果が左右される
- 数値の分析ができないと、調査結果を活用できない
- アンケート調査の場合、回答範囲が質問内容に制限される
定性調査のメリット
- 潜在的なニーズから新トレンドを抽出できる
- 様々な視点や意識、生活様式などを新たなアイデア発掘のヒントが得られる
定性調査のデメリット
- サンプル数が少ないため、調査設計者、インタビュアーの能力によって結果が大きく左右される
- 会場の手配、インタビュー候補者の選定、報告書作成などで手間・費用がかかる
事例
食品メーカー
新商品の開発と消費者のニーズを把握するために次の市場調査を実施しました。
- 競合相手や流通問屋へのヒアリング調査:市場・競合相手・自社の把握
- 他業界での事例分析
- インターネットアンケート調査:広域での消費者ニーズの把握
- グループインタビュー調査:消費者の深層心理の把握
市場調査から企業視点と消費者視点から正確に市場や自社のことを把握でき、他業界での事例分析から新しい視点が取り入れられました。
化粧品メーカー
新商品の商品コンセプトとパッケージデザイン・広告の受容性を事前確認するために調査対象者を会場に集めて、ホームユーステスト(HUT)を実施しました。実際に新商品を試してもらうことで、精度の高い調査につながります。
中小企業が市場調査で成功させるポイント
中小企業はアンケート調査の質を高め、本音を引き出すことが市場調査を成功させるポイントです。定性調査は調査対象者の潜在意識を探るのにはスキルとコスト負担が求められるため、一定規模以上の企業向けといえます。

調査対象者を極力絞る
たとえば、セキュリティ対策についてアンケート調査を実施する場合、年代・性別・属性などでニーズが異なります。
解決したい課題を具体化する
原因分析を的確にするために、課題を具体化しましょう。たとえば、セキュリティ対策のサービスを提供する場合、「目標年商5,000万円」より「目標は受注件数10件、年商5,000万円」のほうが行動に落とし込みやすくなります。
課題解決の仮説を立てる
上記のセキュリティ対策のサービスを例にすると、目標年商5,000万円を達成する方法がたくさん存在し、すべての解決策を情報収集するには時間がかかりすぎます。そのため、仮説を立て検証したほうが効率的な課題解決につながります。
調査対象者の立場になる
アンケートを調査に回答するのは調査対象者にとって面倒な作業です。そのため、質問項目を多くしすぎず、用紙の冒頭に「アンケートの所要時間」を記載するなどの工夫が必要です。また、自由記入欄に回答するのも面倒であるため、全体の質問に占めるウェイトを少なくしましょう。
まとめ
市場調査を正しくやることが事業を成功させるポイントになり、特に次のことを心がけましょう。
調査目的を忘れないようにする
調査目的が市場調査の羅針盤になります。特に調査対象者を絞ることが目的を明確にするうえで大切です。
競合分析も重要
たとえ売れる商品やサービスでも、自社から購入する保証はないため、消費者のニーズだけなく、競合分析を意識しましょう。