M&Aという言葉は一時期、堀江貴文社長のライブドア事件が起こった際によく聞いた言葉ではないでしょうか。しかし、具体的にどのような制度なのか、なかなかイメージが掴めませんよね。そこで、具体例を交えて、M&Aの目的や種類など解説します。
M&Aの背景
少子高齢化で国内市場が縮小する中、業績が好調であるにも関わらず、「後継者がいない」「今後の成長戦略が描けない」といった悩みを抱える中小企業が増えています。
特に後継者不在の問題が大きく、仕方なく廃業を選ぶ経営者が年々増加傾向にあります。
そのような中で、大きな注目を集めているのが「M&A」による事業承継です。
M&Aにより企業を信頼できる企業へ譲渡することで、長年培ってきた企業のノウハウを途絶えさせることなく、事業を存続・拡大させることが可能になります。
しかし、具体的な手法やメリットはなかなかわかりづらく、浸透していません。
そこで、当記事では基礎から応用までしっかりと解説します。
M&Aとは

M&A言葉の意味
M&AとはMerger(合併)とAcquisition(買収)の略で、企業間でおこなわれる、合併や買収などの取引のことです。
また、場合によっては、合併や買収に限らず事業提携などもM&Aの1つとして捉えられることもあります。
M&Aの概念について
吸収合併、株式の取得・移管(TOB含む)、事業譲渡、会社分割、合併などがある。広義には、合弁会社設立を含めた資本提携や業務提携、OEM提携などを含む。
公正取引委員会のガイドラインによると、会社の株式の保有、役員の兼任、会社以外の者の株式の保有又は会社の合併、共同新設分割若しくは吸収分割、共同株式移転若しくは事業譲受け等を「企業結合」というとされ、審査の対象となる。
Wikipedia「M&A」概要より引用
M&Aの目的

ここまでM&Aの定義について確認してきました。では、M&Aを行う事でどのような目的が果たされるのでしょうか?以下解説します。
目的1. 後継者問題の解決
売り手側のメリットとして昨今注目されているのは、「経営者の高齢化による後継者問題」の解決です。
人材難により、後継者不足が深刻な問題となっています。親族や社内に後継者がいる場合でも、自社株式の承継に伴う税負担やコストに耐えられません。
このような課題を抱えている場合でも、上場企業や同業の大手企業をはじめとした経営・財務基盤の強固な信頼できる企業に譲渡することで、事業を継続させる事ができるだけでなく、さらなる発展も期待することができます。
目的2. 事業成長に必要な時間を買える
買い手側の最大メリットとして、「事業成長に必要な時間を買える」という点があります。
新規事業への参入や事業の多角化、市場シェアの拡大を目指す場合、ゼロから事業を育てるには膨大な時間とコストが必要になります。
M&Aを活用し、事業譲渡や株式譲渡で優良企業(事業)を買収すれば、企業が保有するノウハウや取引先、人材、技術などを継承できるため、時間やコストを抑えて加速度的に自社の事業を発展させることが可能です。
目的3. 従業員の雇用の安定
多くの中小企業経営者は、自社を長年支えてくれた従業員を家族のように考えているでしょう。
信頼の置ける優良企業に事業や会社を引き継ぐことで、家族同然である従業員の雇用の安定も図れます。
そして、経営者自身も保有する株式を売却して現金化することで、廃業コストをかけずに第二の人生を歩む資金を得ることができます。
以上3つの目的で、M&Aは実施される事が多いです。
M&A事例
同じ業種の二つの企業が合併することで、企業規模が大きくなります。企業規模を大きくすることで、経営基盤を安定させたり、競争力を高めたりする目的などで行われています。製薬会社や金融機関などに事例が多いです。
製薬会社の事例
2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して、アステラス製薬が発足。
金融機関の事例
三菱銀行と東京銀行が合併してできた東京三菱銀行と、三和銀行と東海銀行が合併して誕生したUFJ銀行が2006年に合併して、三菱東京UFJ銀行が発足。 (2018年4月1日に三菱UFJ銀行に名称変更)
このほか、買収で有名な企業は日本電産です。日本電産は、1984年から2017年の34年間に57社を買収し、いずれの買収も成功させていることで有名です。
日本電産の主力事業はモーターです。ところが、買収先は必ずしもモーターの会社ではありません。
日本電産は、モーター周辺領域で技術力のある企業などを買収し、自社技術と買収先の技術を組み合わせて、新規需要を開拓するという戦略をとっています。
自社で研究開発して、新規事業を育成するには時間がかかります。
日本電産では、主力事業の周辺領域で技術力のある企業や販路を持つ企業を買収することで、事業領域を拡大し、企業成長を図っているわけですね。
この場合、スピーディな事業領域の拡大がM&Aの目的ということになります。日本電産ではこのことを「時間を買う」という言い方をしています。
M&Aの流れと手続き

ここからはM&Aの手続きの流れ、プロセスについて解説します。
プロセス1
M&Aの意思決定をする前に検討するべきこと
M&Aで会社を売却する場合の一般的な流れと手続きを確認します。M&Aにおいては、今後の方向性や目標を決めるということが手続きの第一歩です。
会社の売却に真剣に向き合い、本当にM&Aという選択でいいのか、ほかに手段はないのかを検討して、実行するかどうかを決めるという手続きが重要です。
その際に、中立的なアドバイスを出せる専門会社への相談が望ましいとされています。
プロセス2
M&Aにおける方針・課題の整理
M&Aという方向が定まり依頼先が決まった後、やるべき手続きは、仲介契約あるいはアドバイザリー契約を結ぶことです。
そして、この先どのような手続きでM&Aを進めるか、何を優先してどのような方針で進めるのか、などを整理します。 会社の経営資源、資産・負債などを踏まえ、専門会社の試算と現経営者の希望価格とを擦り合わせて売却価格を決めます。
プロセス3
買手へのアプローチ
次の手続きは、買手へのアプローチです。まず、買手となりそうな会社の候補をリストアップし、そこから条件に合いそうな候補先を数社に絞込みます。 そして、「ノンネームシート」と呼ばれる匿名の企業概要を買手候補の会社に提示して打診します。
買収を希望する会社から、さらに詳細な情報を求められれば、秘密保持契約を結びIM(売却対象となる企業・事業等に関する情報を詳細に記載した資料)を開示します。
現経営者であるトップ同士の面談も重要な手続きです。
通常、2、3社程度の面談を行いますが、売手企業と買手企業のトップ同士が顔を合わせて話ができるのは、基本的にはこのときだけと考えた方が良いでしょう。
限られた1~2時間程度ではありますが、経営者同士話し合う貴重な機会であり、M&Aを決定づけるほどの影響を持つ手続きの一つです。
プロセス4
買手による詳細調査(デューデリジェンス)
基本合意をした後、買手企業は売手企業の実態を把握するために、詳細調査(デューデリジェンス)を行います。
デューデリジェンスとは、財務(資産・負債の状況など)、法務(約款・契約関係など)、事業(生産・販売活動など)、労務(会社組織・従業員など)に関する調査する手続きのことを指します。
具体的には、買手企業が専門家に依頼し、その担当者が売手会社を訪問して、帳簿を閲覧したり、書面ではわからない会社の状況などをチェックしたりする手続きです。
このときになって簿外債務や不適切な経理処理、労務問題などが発覚すると、買手が受ける印象が悪くなるため、マイナスの情報であるほど事前に開示しておくことが望ましいでしょう。
重大な事実を隠蔽すると、あとで訴訟問題に発展することもありますので、注意が必要です。
プロセス5
条件交渉
デューデリジェンスの結果、M&Aの手続きを進めることで問題なければ、経営者、役員、従業員の処遇や、最終契約までのスケジュール、その間に遵守すべき事項、守秘義務などに関する合意事項について固めます。
その後、M&Aについて細かい条件を詰めていき、最終的な売却価格を決定します。
プロセス6
最終契約・代金受け渡し
最後の手続きで、譲渡の内容(株式譲渡・事業譲渡など)、売買価格を定めた最終契約書を取り交わし、買手側から譲渡代金を受け取ります。
M&Aの手法と分類

ここからはM&Aの手法と分類について解説します。
手法1. 資本業務提携
資本業務提携は、業務提携に伴い、対象会社への増資または対象会社の一部の株式を譲渡する事で、提携先に対して議決権を与える手法です。資本提携により、業務提携という単なる契約関係より強固な関係性を構築することが出来きます。資本提携を行うときは、協力内容を明確にするため、同時に業務提携契約を締結することが一般的です。
手法2. 業務提携
資本の移動を伴わない提携であり、企業が共同で事業を行うことで、お互いが資金、技術、人材等の経営資源を提供しあって、相乗効果(シナジー)を得ることによって、事業競争力の強化を目指すものです。
具体的には、新規事業への進出、技術力の強化・補充、技術の共同開発、生産力の強化・補充、販売力の強化・補充などの目的があります。
業務提携の種類は主に「技術提携」「生産提携」「販売提携」「その他」の4つに分類されます。
手法3. 合併
合併は、複数の会社を1つの法人格に統合する手法です。消滅する会社の権利義務の全部を存続会社が吸収して承継させる手法である「吸収合併」と、新規に会社を設立し、新設会社に、消滅する合併対象会社の全ての権利義務を承継させる「新設合併」があります。
手法4. 買収
買収は、「株式譲渡」、「第三者割当増資」、「株式交換」、「株式移転」、「事業譲渡」といった手法に分かれます。
「株式譲渡」は、株主が保有する対象会社の株式を対価と引き換えに他社へ譲渡することにより承継させる手法であり、中小企業のM&Aにおいて最も多く採用されています。
手法5. 合弁会社設立
複数の企業が資本を出し合い、合弁で会社を立ち上げることをいいます。
手法6. 資本参加
対象会社に増資または対象会社の一部の株式を譲り受ける事で、限られた議決権の中で経営に参画することをいいます。
M&Aマッチングサイトとは?

M&Aマッチングサイトとはご存知でしょうか?
M&Aをサイト上で比較検討し、進める事ができるサイトです。
主に、人材サービス会社が運営するサイトと、それ以外のサイトにわかれます。
人材サービス会社が運営するサイトでは、求人サイトのノウハウを転用できるため、マッチング検索機能などが使いやすいのが特徴です。
以下、20社マッチングサイトをご紹介します。
1. トランビ
M&Aの実績が2,057件と国内で最大級のマッチングサイトです。売り手の手数料は無料で、買い手は成約した時点で、手数料が3%発生します。
日本全国の案件を取り扱っており、業種も飲食、小売、Webサイト、医療、介護など幅広く取り扱っています。
2. バトンズ
東証一部の日本M&Aセンターグループが運営するサイトです。ユーザー数は国内最大級の2万人です。売り手も買い手も、手数料は無料です。
ただし、企業評価や契約書のチェック、企業の精査などを行う場合に手数料が発生します。業種は、飲食、小売、Webサイト、運送・宅配、学習塾など多様です。
3. 事業承継総合センター
リクルートが運営している後継者探しのマッチングサイトです。M&Aの仲介会社と買い手会社を比較、検討することができます。
4. M&Aクラウド
買い手を探せるM&Aサイトです。地域別、条件別に案件を探せます。プロのアドバイザーに相談したい場合は無料でアドバイザリーを依頼できます。(アドバイザリー契約後は利用料金発生)
5. ビズマ
事業承継のマッチング費用(着手金、仲介手数料など)が無料のサイトです。業種は、不動産、住宅、飲食、美容、医療、金融、レンタルなどの業種が豊富です。
6. FUNDBOOK
日本全国のM&A案件が登録されているマッチングサイトです。地域別、条件別に案件を探せます。M&Aの相談やプラットフォームの利用料などは無料です。
7. M&Aナビ
交渉相手のマッチングからM&A契約まで、オンライン上で作業できるWebサイトです。M&A成立までは無料で、成約時点で売り手、買い手ともに5%~9%の手数料が発生します。
オンラインアンケートに回答することで、無料で株価を算定してくれます。
8. M&A PARK
35か国以上の海外投資家が登録しているマッチングサイトです。登録や着手金は無料です。システム利用料、成立手数料などは無料です。海外の案件も多数登録しています。
9. M&A プラス
デロイトトーマツグループのM&Aマッチングサイトです。売手や買手の両方から手数料を受領する仲介行為ではなく、売手側と買手側にわかれてアドバイスを行うサービスを提供しています。
10. みんなのM&A
譲渡対象資産額が5億円以下の企業を対象としたマッチングサイトです。オークションの利用料、 システム利用料、成立手数料などは無料です。
ただし、セラーデューデリ(10万円+交通費)やM&Aコンサルティング費用(50万円+交通費)が発生します。
11. ビズリーチ・サクシード
転職サイト「ビズリーチ」が運営する国内最大級の事業承継サイトです。譲渡企業は、原則全ての機能を無料利用でき、成約時も料金は一切発生しません。
譲り受け候補の企業は、成約した場合に限り、譲り受け金額の1.5%(最低支払金額100万円)を支払います。
12. マフォロヴァ
非公開型のM&Aマッチングサイトです。譲渡企業は、相手先を探しているという情報を公開せずに、相手を探すことができます。
登録や利用時点は無料で、成約時点で企業買収総額の1.5%、あるいは100万円のいずれか高い金額を支払います。
13. サイトキャッチャー
サイト売買実績日本一のマッチングサイトです。売り手と買い手の交渉を直接行う直接交渉プランと、サイトキャッチャーに仲介をしてもらうサイト売買仲介プランがあります。
14. サイト売買Z
Webサイト専門のM&A仲介サイトです。サイト売買の相場などが掲載されており、参考になります。
15. Awesome
売買価格が1億円以上のWebサイト専門のM&A仲介サイトです。アフィリエイトサイトや通販サイト、ポータルサイト、マッチングサイトなどを売買できます。
16. RESITE
RESITEが仲介や交渉をする仲介プランと、売り手、買い手と直接交渉をする直接交渉プランがあります。売り主側の手数料は、業界最安値の3%となっています。
17. SiteBank
1日の新着案件が平均6件の大手Webサイト専門のM&A仲介サイトです。2019年4月24日時点で、売却案件が2,558件もあり、サイトの売買では抑えておきたいサイトです。
18. プレミア M&A
WebサイトのM&A仲介やドメインの売買サイトです。エンタメやポータルサイト、女性、ファッション系のWebサイトなどを売買しています。
19. サイト楽市
Webサイト専門のM&A仲介サイトで、サイトを買う側も売る側も、手数料は無料です。入会金や月額費も無料です。
20. サイトハント
Webサイトの売却だけでなく、IPOを目指しての投資家を募ることも可能です。
M&Aまとめ
当記事では、M&Aに関する主要な情報を網羅的に解説しました。
これをもとにしていただければ、M&Aを検討中の方はしっかり方向性を決められるでしょう。