法人の種類も近年新しい形態が認められ多様になってきています。営利法人の株式会社が代表的なものですが、その他公益的な法人もあります。個々の法人により営利法人でも公益的な事業目的、事業内容での展開も可能ですし、公益的法人でも民間分野の事業内容を行政の関与がない形での展開が可能なものがあります。 人が共に力を合わせて事業をするという協働という観点で、人・物・金の経営資源のうち、特に人の力を経営資源の軸とした法人の種類と運営について知っておきましょう。
協働という考え方
人が共に力を合わせるという仕事に関するモチベーションは、人々のエネルギーを結集し、組織づくり、組織運営にとって重要な要素です。特に創業期の事業や小規模の会社では、人に関わる要素が人・物・金の経営資源のうち最も重要なものでしょう。
また人の役に立ちたい、社会の役に立ちたいなど、多くの人々の心をとらえる要素があれば人の力を結集させることができます。共に力を合わせ働くことを協働と呼びます。共同は共に同じ立場というニュアンスですが、協働になると協同組合と言われるように協力し合う要素が反映してきます。また協同組合は法律的に確定した法人ですが、協働型法人というのは法律用語で確定したものではありません。
営利法人の株式会社のあり方、事業目的、事業内容、運営方法でも、新しい考え方での展開が行われるようになりました。事業目的、事業内容では、近年ソーシャルビジネスやコミュニティビジネスという分野が確立してきました。社会性のある課題や地域性のある事業分野について、多くの人の力を結集し展開していくものです。協働においても日本の風土に合った持続的に運営可能なものにするために、各種の法人形態で事業が行われています。
株式会社のあり方でも、資本主義の原理による資本、経営、労働の分離が基本となっていますが、資本規模が小さく組織規模も小さい企業形態では、この原理そのものが労働の疎外を生み出しているという考え方も出てきました。
ワーカーズコレクティブという考え方で、資本と経営と労働を一体化し、みんなが株主で、経営者で、労働者であるという形態を志向するものです。協同組合的な考えもありますが法的に規定された協同組合は、生活協同組合、農業協同組合、事業協同組合など限定されたものでしか認められず小規模で自由な組織には向きません。公益的な事業内容の場合は後述する各種の公益的法人の方が向いている場合もありますが、公益性にこだわらない事業内容では、株式会社での形態でもワーカーズコレクティブの考え方での経営は可能です。
協働型の法人の種類
行政改革が行われる中で公益法人(社団法人および財団法人)の見直しが行われ、設立に関して主務官庁による許認可主義がとられていたことの改正が行われました。事業の公益性の有無に関わらず、一般社団・一般財団の法人化を、法の定める要件を充足さえすれば、主務官庁の許認可は必要なく、自由に設立することができるようになりました。これは株式会社の設立と同様に準則主義(法の定める要件を充足さえすれば可)による設立となります。
法律的には、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」として、2008年12月1日より施行されて現在普及しています。また一般社団法人及び一般財団法人のうち公益性の審査を経て公益認定を受けたものは、公益社団法人及び公益財団法人として税制上の優遇措置を受けることができます。
一般社団法人及び一般財団法人に先立ち1998年12月に施行されたのが特定非営利活動促進法により、ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動を行う法人として特定非営利活動法人(NPO法人)が誕生しています。さらに2001年10月には認定特定非営利活動法人の制度が生まれ、諸官庁の認証を受けた法人は税制上の優遇措置が受けられるようになりました。
その他、協働組合の考え方を反映した小規模組織の企業組合もありますが、上記の各種の法人形態の誕生で近年は少なくなってきています。また先述した通り株式会社の共同出資形態での運営もあります。
一般社団法人
一般社団法人は、一定の目的のもとに結合した人の集団で法人となったものです。先述した行政改革により成立した法人格で、行う事業の公益性の有無にかかわらず、目的や事業内容については自由で法律上の制限がありません。公益目的(不特定多数の人の利益に寄与すること)や、共益目的(特定の構成員・会員等の利益を図ること)、私益目的(特定個人・団体の利益を追求すること)など、どのような目的で事業を行うことも法律に違反せず公序良俗に反しない限り自由です。設立では行政諸官庁の許認可は不要です。「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」において、法人の組織や運営に関する事項が定められています。
設立手続として、下記を行うことで成立します。
- 目的等を記載した定款の作成定款は、社員(総会での議決権を有する構成員)になろうとする者が2人以上で作成しなければなりません。
- 公証人による定款の認証
- 設立時役員等の選任
- 設立時理事(設立時監事が置かれている場合は,その者も)による設立手続の調査
- 設立の登記
なお社員に剰余金等の分配を受ける権利を与えることはできません。協働型組織では働きのない不労所得を認めない理念が基本的にあります。 設立時の出資金という形態では不要ですが、活動資金を調達する手段として基金とし構成員などから財産の拠出を受け基礎財産とします。
一般社団法人や一般財団法人では要素として公益性がありますが、公益性とは不特定の人を対象にした事業で、事業による収益を団体の特定の構成員に分配してはならないという趣旨があります。事業によって収益を上げること自体に問題はありません。公益的事業にも持続的経営は必要で適正な事業利益を上げることは正しいことです。配当などの利益分配ではない形態での構成員の給与や報酬は問題ありません。
一般社団法人に向いた業務の分野としては例えば専門人材をそろえた各種のサービス事業などが考えられます。例えば、ビジネスコンサルタントをそろえたコンサルタント事業、ITのセキュリティ分野の技術者集団によるITセキュリティ事業、耐震建築の複数の設計者による設計団体などです。多様なものが可能でしょう。一般社団法人名を付けることで公益的・専門的なイメージを持たれる点がプラスに働きます。それだけに責任を持った運営も必要です。
一般財団法人
財団法人とは、一定の目的のために提供された財産を運用するためその財産を基礎として設立される法人です。一般財団法人も一般社団法人と同様、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般社団・財団法人法)」に基づいて一定の要件を満たしていれば、事業目的に公益性がなくても、主務官庁の許可はなくても、登記によって任意に設立できる法人です。株式会社と同様の手続きです。
一般財団法人の特殊性としては、300万円以上の財産拠出が必要となる点があります。
機関は理事、監事、評議員から構成されます。原則として株式会社と同様に、全ての事業が課税対象となります。設立者に剰余金等の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは無効です。 また事業年度2期連続して貸借対照表の純資産額が300万円未満となった場合は解散しなければなりません。事業の活動原資は財産を運用した運用益を当てることができます。 財団法人は、例えば自分の財産を何らかに運用してほしい場合に活かすことができます。
設立手続としては次のようになります。
- 目的等を記載した定款の作成設立者が一般財団法人の定款を作成します。設立者は一般財団法人へ財産を拠出する者で財産を拠出しない者は設立者にはなれません。法人も設立者になれますが、法人は理事、評議員、監事にはなれません。
- 公証人による定款の認証定款が作成できたら公証役場で公証人の認証を受けます。
- 設立者による300万円以上の財産の拠出定款認証が無事終了したら、設立者は拠出金を振り込みます。まだ法人設立前ですので法人名義の銀行口座がありませんので、設立者の個人口座へ振り込むことになります。設立者が複数名いる場合は代表者を一人決めて、その代表者個人の銀行口座へ拠出金をそれぞれ振り込みます。
- 設立時の評議員・理事・監事の選任及び就任承諾
- 設立時理事及び設立時監事による設立手続の調査
- 設立の登記
一般財団法人は遺言によっても設立できます。財産の一部等を自らの死後、特定の目的のために財団法人の形にしておき、遺言執行者にその実行をゆだねるものです。遺言による設立の流れについては下記の通りです。
- 設立者が遺言で一般財団法人を設立する意思を示し定款に記載すべき内容を定めます。
- 遺言執行者が遺言の執行をします。遺言に基づいて定款を作成し、公証人の認証を受けます。
- 遺言執行者が財産の拠出の履行をします。
- 定款で設立時評議員、設立時理事、設立時監事(設立時会計監査人を置く場合は、この者も含む)を定めなかったときは、これらの者の選任を行います。
- 設立時、理事および設立時監事が設立手続きの調査をします。
- 設立時、理事が法人を代表すべき者(設立時代表理事)を選定し、設立時代表理事が法定の期限内に設立の登記の申請を行います。
一般財団法人に向いた業務では資金や資産の運用に関するものや寄付に関するもの、投資に関するものなどが考えられます。クラウドファンディング分野などがあります。 社会貢献型の分野では、お金や土地などの財産があって社会貢献したいが適当な対象団体や対象者が分からない人に、対象者をマッチングさせ一定の進行管理をするなどの業務を代行して行うなどがあります。また、高齢で後継者がいない人の遺産の寄付と管理などです。
公益社団法人、公益財団法人
一般社団法人、一般財団法人よりも、事業内容の公益性が認められることで、税制上の優遇措置が受けられる法人が公益社団法人、公益財団法人です。公益社団法人、公益財団法人に認定されるには、まず一般社団法人、一般財団法人を設立し、民間有識者からなる第三者委員会による公益性の審査(公益目的事業を行うことを主たる目的とすること等)を経て、行政庁(内閣府又は都道府県)から公益認定を受けた後に登記するという手順を踏みます。 公益認定を受ければ税制上の優遇が受けられるというメリットはありますが、監督官庁の監督を受けるというデメリットも生じます。また厳格な法人運営が求められ認定後も認定基準を維持するマネージメントが必要です。
特定非営利活動法人
特定非営利活動促進法に定められた、保健、医療や社会教育、まちづくり等の20種類の活動分野に該当する活動であって、不特定多数の者の利益の増進に寄与することを目的とするものです。 特定非営利活動法人(NPO法人)を設立するためには、特定非営利活動を行うことが主目的であること等について都道府県又は政令指定都市の認証を受けることが必要です。
認証の主な要件は、活動内容に関するもので特定非営利活動に関する主目的(宗教、政治活動を主たる目的としてはいけないなど)の適合性、営利性に関するもので社員(構成員)に労働に基かない利益を分配してはいけないこと、役員報酬を受け取ることができる役員は役員総数の3分の1以下にすること、組織に関するもので10人以上の社員の存在に関すること、理事3人以上及び監事1人以上が必要なことなどです。必要申請書類の一部は受理した日から1カ月間縦覧に供され点検されます。
設立手続としては下記のようになります。
- 定款、役員名簿、事業計画書等の作成
- 設立総会の開催
- 所轄庁(都道府県又は政令指定都市)へ設立認証の申請
- 設立の認証、登記
認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)
特定非営利活動法人のうち、広く市民から支援を受けていること等の一定の要件について、所轄庁(都道府県又は政令指定都市)から認定を受けることで、認定特定非営利活動法人として税制上の優遇措置を受けることができます。
共同出資型株式会社
会社形態の法人としては、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社がありますが中心となるのは株式会社です。株式会社で経営者同士のつながりが基礎になって、同等の50%づつの出資額で同等の費用負担、利益折半という形態もあります。過半数出資で支配権を取る考え方とは異なるものです。またリーダーが関係者に呼びかけ多数小口出資で運営する形態もあります。先に紹介したワーカーズコレクティブ型の一定の関係者による出資・経営・労働の一体型もあります。
株式会社形態ですから出資額が明確である点で他の協働型法人とは区別されお金に関しては運営しやすい点があります。
株式会社設立の際の資本金ですが、2006年に施行された新会社法によって、最低資本の規定がなくなり1円以上の資本金があれば株式会社が設立できるようになりました。起業家(出資者)が資本金とする金額を自らの個人名義の口座に入金して通帳のコピーをとり、そのコピーを法務局に提出します。会社設立の手続きは下記通りです。
- 定款の作成定款に定める必要事項の決定し、発起人全員の実印・印鑑証明を用意、発起人全員の同意により定款を作成します。
- 公証役場での定款認証
- 出資金(資本金)の払込み
- 定款の謄本取得定款の認証が完了すると、認証日より後に発起人全員で資本金の払い込みを行います。
共同出資型株式会社の問題点についてですが、株式会社においては、重要事項の決定は株主総会において行います。取締役の選任や解任、取締役の報酬(役員報酬)の決定などです。出資割合に応じた議決権が与えられるので、意見が食い違った場合に、経営者の提案が否認されることもあります。また、2人出資・経営で同額出資であれば株主総会議で意見が食い違ったら議案が可決されません。友人同士で共同出資する場合、最初は仲が良くても一緒に事業を行っていくうちに、お互いの意見が異なってくるということがありえます。2人がお互いに取締役になっているような場合、簡単に一方の取締役を解任することができません。株主総会で決定する必要があるからです。
各種法人の設立に関する登録免許税、手数料など

株式会社
- 登録免許税 最低15万円株式会社の設立登記をする場合登録免許税がかかります。 資本金額×0.7%の金額となります。しかし、最低金額は15万円になっています。たとえば資本金額が3,000万円の場合の登録免許税は21万円となります。しかし資本金額が1,000万円の場合は7万円で、15万円未満となるため登録免許税は1件15万円となります。
- 公証人定款認証手数料 5万円
- 定款印紙代 4万円 ※ただし、電子定款の場合は印紙不要
- その他 定款謄本代
一般社団法人、一般財団法人
- 登録免許税 6万円
- 公証人定款認証手数料 5万円
特定非営利活動法人
登録免許税などはかかりません。
その他、株式会社、一般社団法人、一般財団法人では登記事項の変更に付き一定の手数料がかかりますが特定非営利活動法人ではかかりません。 また株式会社、一般社団法人・一般財団法人では赤字の場合でも法人地方税7万円はかかりますが、特定非営利活動法人は主目的の特定非営利事業のみ行い赤字の場合、法人地方税7万円は免除される制度があります。ただし、主目的の特定非営利事業以外の、「その他の事業」(収益事業など)を行っている場合は免除されません。 このように特定非営利活動法人は、行政の認証を受けた非営利性から税制面などで基本的に優遇されています。
協働型法人のどのような法人を選んだらよいのか
自由に設立できるのは、株式会社、一般社団法人、一般財団法人です。事業目的、事業内容とも自由です。所定の手続きさえすれば設立登記できます。一般社団法人、一般財団法人は法人名でその法人名が冠されますので公益法人的なイメージをもって受け止められるでしょう。事業内容が名称にマッチしていればプラスでしょう。繰り返しになりますが、一般社団法人は一定の目的を持った人の結集した組織で、一般財団法人は提供された財産の運用を行う組織です。
社団法人、財団法人型のどちらを選ぶかの基準はありません。最低必要な人数、資産等も加味して、実情に応じて選択することになります。一般社団法人は、最低2名からでも設立でき純資産がゼロでも設立できます。共通のテーマがあり、人的な関係が既にあり一緒に何か事業活動をしたい場合には一般社団法人が合っているでしょう。お金に関する事業で資金交付型の事業を行う場合でも、多くの人が経営に参画する方式で運営したい場合には、財団法人型ではなく、社団法人型を選択してもよいでしょう。逆に、少人数の役員等(理事・評議員)によって意思決定し事業活動を行いたい場合には財団法人型は適しています。ただし、 一般財団法人は、財産に法人格を付与するという制度の特性上、2年連続して純資産が300万円を切ると、自動的に解散状態になる点は注意が必要です。
非営利性が強い事業を行う場合には特定非営利活動法人はリスクがありません。設立に関する費用や法人地方税の免除の制度があるからです。
協働型法人設立の意義
公益性や共益性などで設立されることの多い一般社団法人、一般財団法人、特定非営利活動法人などですが、従来任意団体として活動してきた母体がある場合もあり、法に定められた法人として運営することにより、組織の根拠が明確になるため、任意団体と比べて社会的信用が増します。
特にこれらの法人は地方自治体の指定管理者制度による受託事業など行政からの民間委託の可能性もあり、受託条件として法人格が必要な場合や必須条件になっていることもあります。
また任意団体では銀行口座の開設など対外的な契約が代表者の個人名義で行わなければならないため、代表者が変わるごとに口座の名義変更が必要な点もありますが、法人化すれば法人名の口座開設が可能となります。
法人名で事務所の貸借、従業員の採用・雇用などが行えます。
物品のリース契約でも任意団体では代表者が個人名義で行わなければならない点がありますが、法人契約が可能になれば代表者の個人リスクがなくなります。 損害賠償の責任も、法人用の損害賠償保険に加入できるため原則として代表者個人ではなく法人が負うことになり、代表者のリスクを軽減できます。
半面、法律上定められた書類作成など事務手続きが増え、経理処理も法人として行うことになるので任意団体より複雑になります。決算や税務申告等のため税理士事務所との顧問契約の上委託作業が必要になってくるでしょう。
協働型法人経営のマネージメント
協働型法人は人の力を結集し力を引き出し、それをエネルギーとして成長、発展していく組織です。人の力を結集するには事業目的がモチベーションになります。またリーダーの魅力も重要な要素です。リーダーの理念に共鳴した人が集まってきます。
協働型というコンセプトがあっても持続的経営を可能にする売上や利益のシステムは必要です。内部の人材で不足している専門分野では外部のブレインや専門家の力が必要です。協働型法人でも課税の仕組みに基本的に変わりはありませんので税務では税理士法人の力を借りることも必要でしょう。専門的技術性がともなう分野ではその道の専門家が必要です。
まとめ

会社組織と会社以外の組織の法人形態について触れてきました。近年新しい分野のビジネスとして先述したコミュニティビジネスやソーシャルビジネスというものがあります。これらも多様な法人形態で行われています。コミュニティビジネスでは市民の個人としての結集で地域おこしが行われたりし、適合する法人格としていわゆるNPOが拡大してきました。しかし、資金面のマネージメントでNPOは弱い点があり、日本の文化土壌からも寄付を集めにくい部分があります。外部の資金を導入する場合、株式会社の方が出資額を明確にでき資金の流動的な扱いが可能ため、法人形態として選択される場合も多くあります。また資金集めの手法もクラウドファンディングなどインターネットを活用した形態が生まれてきました。今後もインターネットを活用した人的ネットワークづくりや、オンラインの協働型組織運営やビジネスの展開が生まれてくるのではないでしょうか。自分の事業の事業目的、事業内容などにより法人の種類を改めて検討してみてください。