最近では「ブラック企業」や職場での「パワハラ」など、さまざまな社会問題が起こる中、起業することでそれらの問題を解決しようと考える人が増えている傾向にあります。また、テレビ番組などで高校生や大学生などの「現役学生起業者」が取り上げられているのを見かけることがありますが、学生のうちに起業することにはどのようなメリットがあるというのでしょうか。
そこで今回は、
- 学生で起業することは可能?起業するメリットはある?
- 学生で起業するために必要な手続きとは?
- 起業するためのお金はどうやって集めればいい?
このような疑問について徹底解説していきます。また、起業することによるリスクについても解説していますので、学生で起業を考えている人はぜひ参考にしてみてください。
学生で起業することは可能?
起業することに関しては法的な年齢制限などはないため、学生でも起業はできます。しかし、後ほど説明する「会社を設立することによって起業する場合」に必要な印鑑証明書は15歳以上でなければ本人単独で登録がおこなえないことになっています。(各市区町村の条例により定める|印鑑登録証明事務処理要領|総務省より)
学生で起業することのメリットとは、日本政策金融公庫がおこなった調査によると、起業時の年齢割合は次のようになっています。
- 40歳代(36.0%)
- 30歳代(33.4%)
- 50歳代(19.4%)
- 60歳代(6.3%)
- 29歳以下(4.9%)

起業者の多くは40歳代と30歳代となっている
この調査では40歳代が一番多く、その割合は全体の約36%を占めています。さらに、過去の割合を見てわかるように、30歳代と40歳代が起業者の大半を占めているといえます。また、学生起業者を含む29歳以下の割合は年々減少傾向になっているといえます。
このように起業者の割合の中でも最も低い29歳以下、かつ学生となると、さらに割合は低くなってしまいますが、学生で起業することにどのようなメリットがあるのでしょうか。
広い視野でユーザーの最新需要をとらえやすい
学生の大きなメリットの1つに「広い視野でものごとをとらえることができる」ということがあげられます。一度企業の正社員として働き始めると、企業内で過ごすことが多くなるため、どうしても視野が狭くなってしまいます。また、安定した収入(給料)が入ってくるため、なかなか視野を広げてものごとをとらえる機会が少なくなってしまいます。
しかし、学生であればアルバイトやサークルなどを通じて、さまざまな経験を得ることができることや、ネット時代だからこそ、インターネットを通じてユーザーが求めている最新の需要をとらえることや情報を得ることができます。こういったリサーチ能力などに関しては若いころからインターネット環境に慣れている若い人の方が長けているといえます。
学生生活では得られない人生経験を積むことができる
学生で起業することは、「起業していない人よりも多くの人生経験を積むことができる」という点も大きなメリットの1つです。
学生生活において多くの人がおこなうアルバイトなどに関しては、社会環境に触れることができる貴重な経験の場といえますが、起業者の場合は、「働く」という労働力のほかにも、
- 事業計画を作成し、実行する「企画実行能力」
- 周囲の環境や状況に合わせて事業を修正していく「判断力・応用力」
- 従業員などの管理をおこなう「管理能力」
- クライアントとの接待など「コミュニケーション能力」
- 事業を成長させるために試行錯誤する「経営能力」
などさまざまな能力を必要とします。これらの能力は起業者としてだけでなく、今後の社会人生活としてもどれも役立つものばかりです。しかし、アルバイトだけではこれらの能力を得ることはできず、学生起業者だからこそフットワークの軽さを生かし、さまざまなチャレンジをおこなうことで、経営者に必要な能力を身につけることができます。そして、結果としてその人の「人生経験」につながります。
学生で起業することは簡単ではありませんが、簡単ではないからこそ、貴重な人生経験を積むことができるのです。
身近に相談できる人がいる環境にいること
学生起業者は「周囲に相談できる人がいる環境である」ということもメリットといえます。学生以外の起業者の場合、クライアントからの紹介や飲食接待を伴う場でなければ、なかなか相談できる人と出会うことは難しいといえます。
しかし、学生の場合は友人や大学教授など身近に相談できる人がいるため、事業に関する相談や、専門的なアドバイスなどをもらうこともできます。学生はほかの社会人と比べると人生経験などが浅くなってしまいますので、周囲の力を借りていくことも学生起業者が成功するポイントといえます。
起業時には2つの方法がある?

起業する際には、
- 個人事業主として起業する
- 法人として起業する
この2つのうち、いずれかの方法で起業します。それぞれの方法によって必要な手続きな特徴が異なるため、よく考えて決めていかなければいけません。
個人事業主として起業する
個人事業主として起業する場合は、法人として起業する場合と比べると、
- 起業時の費用がかからないこと
- 申告に関しても簡単であること
- 帳簿管理などが楽であること
- 法人よりもハードルが低く、事業を始めやすい
などの特徴があります。
また、個人事業主と法人での申告においては「税金の税率」にも差があります。
所得税の計算は下記の税率表にもとづいて次の算式でおこなわれます。
- ( 収入 ) - ( 必要経費 ) - ( 各種控除額 ) = ( 課税所得金額 )
- ( 課税所得金額(A) ) × ( 税率(B) ) - ( 控除額(C) ) = ( 所得税額 )
所得税の税率一覧表
課税所得金額(A) | 税率(B) | 控除額(C) |
---|---|---|
1000円~194万9000円 | 5% | 0円 |
195万円~329万9000円 | 10% | 9万7500円 |
330万円~694万9000円 | 20% | 42万7500円 |
695万円~899万9000円 | 23% | 63万6000円 |
900万円~1千799万9000円 | 33% | 153万6000円 |
1千800万円~3千999万9000円 | 40% | 279万6000円 |
4千万円~ | 45% | 479万6000円 |
表をみてわかるように所得税の税率は「累進課税方式」が採用されており、所得が増えれば税率が上がる仕組みになっています。
そのため、一般的にはまず個人事業主として起業し、事業が軌道に乗ってきたタイミング(税率が高くなったタイミング)で個人事業から法人にすることを検討します。
法人として起業する
法人には複数の組織形態があり、以下のような種類があります。

ここでは一般的な法人として有名な「株式会社」や「合同会社」について取り上げます。
「合資会社」と「合名会社」は損失が発生した際の責任が大きい(無限責任)ため、一般的に設立されることが少ないためです。
法人として起業する場合には、個人事業として起業する場合と比べると、
- 社会的信用力の向上
- 役員として給料をとることができる(給与所得控除による節税が可能)
- 事業承継を楽におこなうことができる
- 税金計算が複雑であること
- 会社の設立費用がかかる(合同会社:約10万円 株式会社:約25万円)
などの特徴があります。
法人での確定申告の際に発生する法人税については、所得税のような累進課税ではなく、「一定税率」が採用されています。税率については次の表のとおりです。

このように法人税にはさまざまな税目があり、それぞれ税率も異なることから税金計算が複雑になっています。また、法人道府県民税(均等割)に関しては赤字の場合でも支払う必要があるため、地域によっては大きな金銭負担となってしまうこともあります。
また、法人税では最低税率が15.0%となっていますが、ほかの税目を合算すると最終的に30%近くの税率になってしまうことも考えておく必要があります。そのため、税率については「法人として起業するのか」「個人事業として起業するのか」ということについての判断材料の1つといえます。
必要な提出書類は?
個人事業として起業する場合や法人として起業する場合は、どちらも税務署や都道府県税事務所などに所定の書類を提出しなければなりません。ここでは、個人と法人において提出する書類にどのような違いがあるのかをみていきましょう。
□個人事業の場合
提出先 | 提出書類 |
---|---|
税務署 | 個人事業の開業・廃業等届出書 |
所得税の青色申告承認申請書 | |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | |
源泉所得税の納期の特例に関する申請書 | |
青色事業専従者給与に関する届出書 | |
所得税の棚卸資産の評価方法の届出書 | |
所得税の減価償却資産の償却方法の届出書 | |
都道府県 | 個人事業開業・廃業・休業届出書 |
□法人の場合
提出先 | 提出書類 |
---|---|
税務署 | 法人設立届出書 |
青色申告の承認申請書 | |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | |
源泉所得税の納期の特例に関する申請書 | |
所得税の棚卸資産の評価方法の届出書 | |
所得税の減価償却資産の償却方法の届出書 | |
都道府県 | 個人事業開業・廃業・休業届出書 |
市区町村 | 個人事業開業・廃業・休業届出書 |
上記以外にも社会保険手続きなどの書類を提出しなければならないケースもあります。
□その他の提出書類(個人・法人共通)
提出先 | 提出書類 | |
---|---|---|
労働基準監督署 | 適用事業報告 | 従業員を雇用する場合に提出 |
就業規則届 | 従業員を雇用し、労働保険の適用事業となる場合に提出 | |
労働保険関係成立届 | 従業員を雇用し、労働保険の適用事業となる場合に提出 | |
労働保険概算保険料申告書 | 従業員を雇用し、労働保険の適用事業となる場合に提出 | |
時間外労働・休日労働に関する協定書 | 従業員に休日出勤や残業をおこなわせる場合に提出 | |
公共職業安定所 | 雇用保険被保険者資格取得届 | 従業員を雇用し、労働保険の適用事業所となる場合に提出 |
雇用保険適用事業所設置届 | 従業員を雇用し、労働保険の適用事業所となる場合に提出 | |
年金事務所 | 新規適用届 | 従業員を雇用する場合に提出(個人事業主の場合は常時5名以上の従業員を雇用する場合のみ提出) |
被保険者委資格取得届 | 常時従業員を雇用する場合に提出(個人事業主の場合は常時5名以上の従業員を雇用する場合のみ提出) |
※従業員にはパート・アルバイトを含む
上記以外にも業種や従業員の人数によって提出が必要な書類がある場合もあります。提出漏れがないように必ず確認するようにしましょう。
新規に事業を開始された事業主の皆様へ|厚生労働省 岩手労働局 労働基準監督署・公共職業安定所
提出する書類には上記以外にも、登記時の書類などがあり、どれも重要なものばかりです。必要な書類の提出がおこなわれていないと税務上問題になるケースもあるため、事前に提出する必要がある書類については、しっかりと調べておかなければなりません。
学生で起業することにリスクはあるのか

学生で起業することは学生ならではのさまざまなメリットがあります。しかし、それと同時に学生だからこそ生じるリスクがあるということも覚えておかなければなりません。
学業に支障がでる可能性がある
学生の本業は「学業」です。しかし、学生のうちに起業するということは学業をおこないながら事業もおこなっていくということです。そのため、事業の方ばかりに意識がいってしまうと、本業である学業に支障が出る可能性が高くなります。
学生は社会人と比較すると自由な時間が多くありますが、授業の復習や予習、講義の課題などやるべきことも多いかと思います。そういった学業がおろそかにならないように注意していくことも重要であるといえます。
自分が事業者である前に学生であるということを意識できるかが重要です。
社会的責任能力が低い
事業者として事業をおこなっていくということは、自分だけではなく、クライアントや事業仲間、従業員などに対して責任を背負っていくということです。しかし、学生の場合は、経済面など社会的な責任能力が低いということがあり、万が一の際に責任がとれるとは限りません。
事業をおこなっていくうえでは、さまざまなケースを想定しておかなければならず、従業員を雇用している場合などは「従業員の生活がかかっている」ということを常に考えておかなければなりません。また、事故などによって相手にけがをさせてしまった場合なども、「代表者として責任を負わなければならない」という点についても考えておく必要があります。
そのため、起業前に策定する事業計画については、さまざまなケースを想定し、内容の濃い事業計画書を作成しておくことが重要です。
起業する際の資金調達はどのようにおこなう?

学生起業者に限らず、起業者の多くが悩む最初の問題として、「起業時の資金調達」があげられます。事業が良いスタートを切るためにも効率の良い最適な資金調達が必要です。
自己資金でおこなう
一番リスクの少ない方法が自己資金による資金調達ですが、学生の場合は資金的に余裕がある人は非常に少ないといえます。そのため、学生のうちに起業を考えているのであれば、早い段階で貯金しておく必要があります。
家族からお金を借りる
家族からお金を借りることで資金調達する方法も、リスクの少ない資金調達といえます。万が一、事業が軌道に乗らない状況でも返済を待ってくれるなど柔軟に対応してくれることが最大のメリットです。しかし、家族といえ、お金に関しては後々のトラブル防止のために契約書などの書類をきちんと作成しておくことをおすすめします。
金融機関から融資を受ける
事業をおこなう上では銀行との取引も必然的に発生していきます。事業を継続しておこなう意思があるのであれば、金融機関から融資を受け取引銀行として関係性を持つことも1つの戦略です。
しかし、金融機関から融資を受ける場合、保証人や担保などが必要となる場合があるため、学生がおこなう資金調達の方法としては少しハードルが高くなってしまいます。
日本政策金融公庫から融資を受ける
日本政策金融公庫には「新創業融資制度」という制度があります。この制度は新たに事業を始める人や、事業を始めたばかりの事業者を対象にしている制度です。新創業融資制度には次のとおり一定要件が設けられています。

学生にとっては「無担保」「無保証人」という条件は非常に魅力的です。そのため、条件を満たしているのであれば、ぜひ検討してみましょう。
クラウドファンディングを活用する
最近は日本でも多くの企業が活用している資金調達の1つです。
クラウドファンディングでは、
- その事業がユーザーにとって魅力的なものなのか
- リターンの条件などはどのようなものか
などアピールの仕方次第で多くの資金を調達できます。
クラウドファンディングでは、
- 寄付型・・・募金活動をインターネット上でおこなうようなもの
- 購入型・・・プロジェクト後、資金提供者にモノやサービスを割安で提供する
- 融資型・・・インターネット上で投資から資金提供を受けた企業から借り入れをおこなう
- ファンド投資型・・・特定事業者から投資を受け、分配金やモノ、サービスを提供する
- 株式投資型・・・特定事業者から株式投資を受け、株式を提供する
これらのいずれかの方法でおこなわれますが、一般的には(1)~(3)の方法でおこなわれます。
多額の資金調達が可能である半面、
- 必ず資金調達できるのかがわからない
- 資金調達までに時間がかかってしまう
という不安要素も多くあることが特徴です。
クラウドファンディングはこれからおこなう事業を、周囲に対して上手にアピールができる人などが向いている資金調達の方法といえます。
補助金や助成金を活用する
現在では、「補助金・助成金」バブルといわれるほど、補助金や助成金は多くの種類があります。その中には起業時に活用できる補助金や助成金があり、それらを活用することで返済する必要のない資金を調達できます。
起業時に活用できる補助金などに関しては、
- ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- IT導入補助金
などがあげられます。
当然のことながら、補助金や助成金を申請する際には書類の作成や審査などによって時間と労力がかかってしまいますが、返済不要という大きなメリットがあることから、募集条件に該当しているのであれば積極的に活用することをおすすめします。
学生で起業する際も税理士に依頼したほうが良い?

多くの人が、「事業が大きくなってから税理士に依頼すればいい」と考えていると思います。
これは、
- 税理士に依頼するほどの事業規模ではない
- 税理士に依頼すると報酬が発生してしまう
- 税理士に依頼する意味がよくわからない
などさまざまな考えがあると思います。
しかし、学生起業者でも税理士に依頼することで得られるさまざまなメリットがあります。
税理士に依頼するメリット(1) 最適な税務手続きが可能
税理士は税務に関する知識が豊富であるため、最適な税務手続きをおこなうことが可能です。事業をおこなう上で発生する税務手続きについては種類も多く、素人では判断がつかないようなものもあります。誤った認識で届出書などを税務署に提出してしまうと、思わぬ税金が発生してしまうケースもあります。
そのため、税理士に業務を依頼することで間違いのない最適な税務手続きをおこなうことができ、納税者としては最低限の納税ですませることができます。
税理士に依頼するメリット(2) 事業効率があがる
税理士は税務に関する知識が豊富なだけでなく、会計に関する知識も豊富です。そのため、帳簿整理などの事務処理を依頼することで業務効率を向上させることもできます。
税理士は税務申告や税務相談だけでなく、帳簿処理などを代行してくれるサービスもあります。このサービスを活用することで領収書整理や帳簿整理などの面倒な事務処理をおこなわなくて済み、その空いた時間を事業に費やすことができます。
そのため、事業に専念できる時間を有効活用し、税理士に支払う報酬以上に業績を伸ばすこともできます。
税理士に依頼するメリット(3) 適切な経費処理が可能
税理士は支出した費用のうち、どこまでの範囲が経費になるのかを知っているため、適切な経費処理が可能です。
経理初心者などが帳簿整理などをおこなう際には、
- 「これは経費になるから費用計上しておこう」
- 「これは経費にならないから外しておこう」
など安易な考えで経理処理することが多い傾向にあります。しかし、これらの判断が間違っていると無駄な税金を支払ってしまうケースや、税務調査時において経費が否認され、加算税などのペナルティが課せられることもあります。
そのため、税理士に依頼することで、
- 経費になるものは計上もれがないようにフル活用する
- 経費にならないものは、少しでも経費に算入できる部分がないか検討する
などのように適切な判断にもとづいた、最適な経理処理をおこなうことができます。
最適な経費処理というのが一番初歩的な節税対策であるともいえます。
まとめ
学生起業者には「Facebook」の創業者や「マイクロソフト」の創業者など、さまざまな有名人がいます。こういった大成功した人がいるからこそ、学生での起業には夢があるといえるのではないでしょうか。しかし、企業を大きくしていくには、事業の途中で発生する数々の問題を解決していかなければならず、そのためにも起業前の事前準備などをしっかりとおこなっておく必要があります。また、起業時の手続きについても、適切な手続きをおこなっていなければ、事業をスムーズに運営していくことはできません。開業を目前に控えている人も、一度事業計画を見直し、少しでも不安や疑問がある場合などは税理士に一度相談するとよいでしょう。