会社の設立、事業の継続をしていく上では登記申請が避けられません。会社を経営していく方は登記に必ず直面するため、その申請をする意味や効果について知っておくと良いでしょう。土地や建物を購入した場合不動産登記を行うこともありますが、ここでは会社にとって必須となる商業登記について解説していきます。

商業登記の申請は起業をするなら必ず行うことになります。これは法律によって強制されています。なぜ登記をしなければならないのでしょうか。
取引の安全のため
登記は「取引の安全」のために必要とされています。商業登記については商業登記法にその各種定めが設けられており、基本的な思想は登記によって安全な取引を実現することとされています。
商売をしていく上では安全な取引を行う必要があり、その相手方との信頼関係も非常に重要です。取引先を決める上では相手の情報を参考にして信頼ができるのかどうか判断しますが、相手方から提示された情報が本当なのかどうかは分かりにくいもの。
相手が嘘をついている場合だと、取引をした自社に大きな損失が発生する可能性もあるでしょう。しかし取引先を疑い過ぎるとスムーズな企業活動は実現できません。逐一公開された情報に対して証拠を求めることにもなり、非効率で無駄な作業も増えてしまいます。そこで、一定範囲の事項につき、どの会社でもオフィシャルに情報公開をしておくという制度ができています。
これが登記というものであり、例えば会社そのものが存在しているのかどうかといった情報は、公開されている登記を見れば分かるようになっています。そのほか会社として重要とされる事項はいくつか登記事項として定められており、公示しておかなければなりません。
つまり会社の登記は、ある会社が何者なのか、基本情報を一般に公開する制度であるといえます。取引の相手方を保護し、そして迅速な取引ができるようにするという「公示機能」と、法律関係の形成を適法化して後々起こり得るトラブルを防止するという「予防的機能」を備えています。
登記の効力
登記制度の目的である「取引の安全」を現実のものとするため、もう少し具体的な効力が会社法908条に定められています。前提として、登記をした内容は第三者に対抗ができることは覚えておきましょう。「対抗ができる」とは、登記して公示している内容につき相手方が「知らなかった」「聞いていなかった」と言っても、登記をしているからそのような言い訳は通用しないと主張ができることを意味します。
逆の立場から言えば、非常に重要な取引を行うのであれば必要に応じて相手方の登記情報は確認しておくべきということになります。
会社法908条では、こうした前提のもと規定が置かれています。908条1項で着目すべきポイントとしては、登記をしなければその事項につき第三者に対抗できないということ、そして登記をしていたとしても第三者に正当な事由があれば対抗できないということです。登記後しかその内容を主張できない=登記すべき事項を登記すれば第三者にこれを主張できた、ともいえます。 一方、第三者が「正当な事由」で知らなかったケースとはどのような場合なのでしょうか。この事由に当てはまれば、登記をしていたとしても「知らなかった」が通用することになります。これは登記制度による取引の安全や信頼問題を揺るがすほどのことです。
「正当な事由」を広く捉えてしまうと登記をすることの意味が薄れてしまうでしょう。そこでよっぽどのことがなければ「正当な事由」には該当しないと解されています。 たとえば病気にかかっていて見ることができなかったとしても、基本的には認められません。大きな自然災害が発生して登記の確認がしたくても不可能な状態に陥ってしまったなど、それくらいの事態でなければここで言う「正当な事由」には当てはまらないと考えられています。ただし、何がこの事由に該当するのか明確に定められているわけではありませんので、本当に見たくても見えない理由があったならその旨を主張するようにしましょう。
会社法908条2項ではさらに、故意やミスによって間違った情報を登記したなら、その事実を第三者には対抗できないと定められています。わざと嘘の情報を記載したのであればこのことは当然であるとも言えます。 しかしミスによって記載してもその情報を見た第三者を保護するという、登記をした側には厳しい内容にもなっています。これもやはり取引を安全に行うために必要なことで、ミスがあればその責任を負わなければならないという覚悟で登記はしなければなりません。
ただしこれは登記申請で間違いがあったという単純な場合でのみ問題になることではありません。たとえば取締役の選任が裁判によって無効になったとしても、登記の抹消をしなければ第三者には対抗できないことも起こります。 つまりこの場合においても登記の信用性を重要視し、たとえ裁判による判決が確定していたとしても、そのような内部事情には関係なく登記を見た第三者が守られるということになります。
ただしこの規定からは、会社に故意やミスがなく不実の情報が登記されていたのであれば、そのことを第三者に対抗ができるという意味も読み取れます。登記は必要書類を提出し登記官によって行われるため、この登記官が誤ったことで不実の登記となってしまった場合には、第三者に「これは登記の内容が間違っている」と主張することができます。この事例においては会社に責任はないため、申請者側を保護すべきということになっているのです。
株式会社における登記件数

非常に重要な意味と効力を持つ登記制度ですが、実際にどれくらい登記が行われているのか見てみましょう。ここでは株式会社における登記事例の一部を紹介していきます。株式会社などよらず、すべての登記内容を含めれば100万件以上は毎年行われています。

上図は登記件数の多いもの10項目を表示した表およびグラフです。最も多いのは登記事項の変更のうち「役員等に関する変更」です。年間50万件近く行われています。取締役や監査役などの役員等には任期があるため、定期的にどの株式会社でも登記申請をしなければならず、これほど多くなっていると考えられます。役員に関する登記に次いで「本店又は支店の移転」と「設立」がそれぞれ約10万件と9万件となっています。移転とはつまり引越しがあった場合のことです。
会社の所在地は登記事項ですので、場所を移したときには登記申請をしなければなりません。設立はそのままの意味で、起業をした件数のことであり、毎年これだけの会社が誕生しているということが見て取れます。一方で「清算人に関する登記」や「解散」というのは会社の終わりに関係する登記です。この図を見ると多くの会社が誕生する一方で、消滅していく会社も多くあるということが分かります。このほか、ほとんどは登記事項の変更に関する内容が上位を占めており、目的の変更や資本金に関することなどで登記が行われていると分かります。
また、上図のランキング外ですが「商号の変更」は約1万2000件、「支店の設置」は約5000件、「資本金額の減少」は約4000件行われています。商号の変更は社名変更のことであり、年間で1万社以上が名前を変えているということが登記情報から分かります。資本金額の減少については約4000件ということですが、資本金額の増加が2万5000件以上行われているのに比べるとかなり少ないことが分かります。これは資本金が会社債権者にとって重要なものであり、簡単には減少できないことに由来します。逆に増やすのであれば会社債権者が文句を言ってくる心配もないため、株主の同意さえあれば比較的簡単な手続きで行えます。
放置するとペナルティも課せられる

登記すべきと定められている事項につき変更等があれば必ず申請をしなければならず、実際前項で紹介したように毎年数十万、数百万件もの登記が行われています。この制度を強制し、実行させている背景にはペナルティの存在が関係しています。登記義務があるにも関わらずこれを行わなければペナルティとして「過料」を課せられてしまうのです。「科料」や「罰金」などとは違って刑罰ではありませんが、最大100万円が徴収されることもあるので注意しましょう。
すでに登記をした内容につき、変更が生じた場合には2週間以内に登記を申請しなければならないという規定があります。この申請を義務付けられているのは会社の代表者です。そのため過料が課せられる場合には会社に対してされるのではなく、代表者個人に対して請求が来ることとなります。
このように変更があったのに登記をしなかった場合を「登記懈怠」と呼び過料の対象とされてしまいます。ここで問題になるのが「選任懈怠」についてです。取締役の辞任に伴い後任者の就任がなされれば登記義務が発生しますが、登記懈怠を避けるために選任そのものをしなければ過料を避けられるのか、ということです。この場合登記懈怠は避けられますが、別に選任懈怠に該当します。前項で見た登記件数では、役員等の変更に付随する登記が多いということが分かったかと思いますが、登記だけでなく役員等の選任自体にも義務が生じるケースがあるため、これを怠っていた場合にも罰則を設ける必要があるのです。
そして選任義務があるにもかかわらずこれをしていなければ「選任懈怠」としてやはり過料が課せられます。例えば取締役会設置会社において取締役が5名いたとして、そのうちの1人が任期満了のため退任、この変更につき登記をしていたとしても定款で取締役の定員を5名と定めていればこれに従わなければなりません。そのため選任をしていなければ選任懈怠により過料の制裁を受けることになります。 ただしまだ選任をしていないため、登記懈怠に対する処罰まで同時に受けることはありません。また、その選任をしていないことが故意および過失によらないものであれば、過料が課せられることもありません。
過料は申請をしていなかった期間の長さが主に関係してきます。ペナルティを受ける場合、裁判所からの通知が代表者に届くでしょう。会社に対するものではないため経費にすることもできません。特に規模の小さい非公開会社だと取締役の任期を10年に伸長していることもあり変更の登記を忘れがちなのでよく注意するようにしましょう。
登記申請で用意するもの

それでは実際に登記申請をする場合に代表者は何を用意しなければならないのか説明していきます。例として、登記事項の変更のうち「商号の変更」をする場合を考えてみます。登記内容に変更が生じたときから2週間以内に手続きを行わなければなりません。すでに説明した通り、この期間を過ぎると過料の対象となりますが、登記ができなくなるわけではありませんので、過ぎたとしてもできるだけ早く済ませるようにしましょう。
さて、商号の変更を行うにはいきなり登記申請を行うのではなく、定款の変更をしなければならないため、株主総会の特別決議を要します。そして変更が生じた日はこの決議を行った日ですので株主総会の日が起算点になるということは覚えておきましょう。
そして登記をするにはその変更があったことの証明も要します。そのため株主と話し合って決めたということが示せる「株主総会議事録」を添付書面として用意しなければなりません。このほか、株主リストが必要で、さらに委任状が必要になるケースも多いでしょう。委任状は司法書士など、専門家に登記申請を代理で行ってもらう場合に必要になります。
登録免許税について
例に挙げた商号の変更では株主総会議事録や株主リスト、委任状などの添付書類のほか、登録免許税3万円が必要です。登録免許税は登記の内容によって変わってきますが多くの場合には区分「ツ」の金3万円と設定されています。
区分「ツ」にはほかに目的の変更や株式の譲渡制限に関する規定、発行可能株式総数の変更、支店の廃止などが含まれています。覚えておくべきことは、同じ区分で申請書が1枚であれば複数の変更を行っても3万円ですべてできるということです。変更がいくつかある場合にはまとめて登記申請をすると良いでしょう。
まとめ
会社にとって、登記は取引の安全を確保するためにとても重要です。申請義務者である代表者は過料に課せられる可能性があるなど負担になるかもしれませんが、しっかりと登記をしていれば第三者に対抗することもできるメリットもあります。役員等の変更に際し登記をすることもあるかと思いますので、期間内に手続きを済ませるようにしましょう。分からないことがあれば専門家の助けも借りるといいでしょう。